【第1話】出会い(ここからはじまります)
日本には、だいたい1万ほどの「駅」が存在するらしい。
一日に一駅を訪問したとしても、日本の駅をすべて制覇するには27年の歳月が必要だ。
そして、それらの「駅」にとても深い愛情を注いでる人間が存在することをご存知だろうか。
人は、彼らを〈駅表マニア〉と呼ぶ。
日本各地の秘境駅、廃駅寸前のの瀕死駅などの駅を訪問し、駅表の写真を収集する。彼らのコミュニティでは、撮りためた写真の数こそがステータスそのものになり、中には一生を〈駅表〉に捧げる人もいる。
そして、俺、立花和正も〈駅表マニア〉の一人だ。それも、「ガチ勢」に分類されるほうの。
小学3年生頃から鉄道旅行にハマり、お年玉やお小遣いを貯めては鉄道一人旅をしていたこともあり、中学を卒業するころには収集した駅表数も600を超えてた。
高校受験を終えた中3の3月。
俺は長いあいだ貯めていた貯金を切り崩し、2泊3日の長旅に向かった。
岩手 ↔ 北海道の電車旅である。
いや、正確には「北海道制覇」の旅である。
総移動距離は1000kmを超える計算になった。
そんな北海道遠征の最終日、疲れ切って寝ていた俺は、深川駅の駅表を取り逃してしまう。
*****
「あの〜、そろそろ駅着きますけど。」
誰かに声をかけられ、俺は目を覚ました。
揺れる電車の中で、どうやら俺は寝ていたらしい。
声をかけてくれたのは見知らぬ少女だった。俺と同い年くらいだろうか?
身長は俺よりちょっと低いぐらい。茶色のコートにモフモフしたマフラー、おまけに首に一眼レフをかけている。電車の中は俺と少女だけ。少女は俺の隣の座席に移動し、
「あなた、寝過ごしちゃいましたよね。(笑)」
「深川駅、さっき通り過ぎましたよ。あなたが寝ている間に。」
少女は自信満々に、そして少しばかり笑ながら言った。
なんなんだこいつ。妙に馴れ馴れしい。
「やっぱりあなた、"駅表マニア"ですよね。」
少女は名探偵のような眼差しで、こちらに指を指す。
その首にかけた一眼レフ。きっと彼女も俺と同じ「駅表マニア」なのだろうか?
「写真なら取りましたけど。欲しいですか?」
少女は続けて言った。
やっぱり俺が「駅表マニア」であることを少女は知っているようだ。
「深川駅」、俺は寝過ごしてしまったのか。マジか…
今回の旅はかなりの遠出で、かかった費用もそれなりに大きくなってしまった。
たった一つの駅とは言えども…
欲しい。喉から手がでるほど欲しい。
「まぁ、たしかに俺駅表マニアだけど…」
「やっぱり!いや〜駅表マニアとして駅を『寝過ごす』なんて、大失態じゃない?」
こいつ、毒舌すぎる…痛い突っつくなぁ…
こういうときは相手の手の上で踊らされてやるのが大人のやり方である。
「そうだよ。ちょっと北海道一周してからね。疲れがたまり過ぎたみたい」
「??北海道一周??」
「まぁ、正確にはちょっと違うけどね」
少女の目が輝いた
「歳はいくつ?出身は?どこから来た?」
うわ、質問攻め…
「15歳、東京生まれ、岩手の盛岡駅。」
「今までに撮った駅表の数は?」
「600ぐらい?かな?」
少女は猛烈に食いついてきた。
「まじか…私はまだ60ぐらいなのに…」
俺は少し調子に乗ってしまった
「じゃあ、俺の10分の1だな」
「そのうち超えてやる!」
いや、多分もう会うことはないと思うぞ。
>>>続く
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