三百字 -三百字の短編小説集-

福守りん

夢の扉

 一度でもその扉を叩いた者は、誰もが必ず己の夢を叶える。扉は東の国の魔女ガラの屋敷にあるという。


 ちんけな片田舎で燻るジャン・クラウスは扉の噂を知って旅立った。僕は大金持ちになろう……。

 雨の日も風の日も歩いた。歩きに歩いた。


 一年後、扉の前に着いた。

 ノックを一回――バーン! 凄まじい音がして扉が開き、部屋の中に吸い込まれた。

 目の前には見知らぬ青年がいた。

「やった!」

「えっ?」

「今度は君だ。誰かがこの扉を叩くまでね」

 閉まる扉の陰に青年が消えた。扉を押したり引いたりしたが開かない。

「どういうことだ?!」

「五年ぶりの空! 自由だ! 夢が叶った!」

 歓喜の声が聞こえた。JKははっとした。


 一度でも扉を叩いた者は――。

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