火球は大蛇を打ち据えた サイドA:6

 私は姿勢を低くして手綱を腕に巻きつけ強く握った。


 オクトーバーの戦闘本能に任せようと思ったのだ。

 少し裕福なだけの、平和な国の普通の高校生の私には、巨獣との戦闘の経験がない。

 さっきも私は、炎に巻かれた景色に茫然とし母を失うかも知れないという事実に狼狽するばかりで、この惨状を引き起こした敵がいるなどとは思いもしなかった。


 この竜が私と出会うまでに何百年何千年を生きて何匹の他の怪物を葬って来たかは知る術がないが、少なくとも私が細かく指図するよりは彼に任せた方が有利に戦えるように思う。


 オクトーバーは鋭いターンで進路を変えた。

 高度は変わらず、夜の黒い海を腹で撫でるような低空飛行。翼は殆ど動かさずグライダーのように滑空して。私と彼は音もなくだが急速に多頭の大蛇に接近した。私はオクトーバーの意図を悟った。怪物はまだ私たちに気付いていない。視界の外から隠れて接近し、不意打ちを喰らわらそうというのだ。合理的な戦法と思えた。だが攻撃手段はなんだろう。そもそも何故海ほたるは炎に包まれているのか。あの頭が複数ある巨大な大蛇には、巨大である以外の能力があるのか。


 オクトーバーは地形と構造物を巧みに利用して大蛇に回り込むように接近する。私の乗る背中が、大きく膨らんだ。彼が息を吸い込んだのだ、と思った瞬間、翼が空気を捉えて急制動を掛けた。彼は建造物の屋上の角を蹴って、飛び出すように垂直に跳んだ。


 眼下に三つの蛇の頭があった。


 私の目の前の竜の口から真っ赤に燃える火球が飛んだ。


 大蛇の真ん中の首が、炎を吹いて爆発した。

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