第65話 密会の約束?
放課後、俺はホッとしていた。
嗣葉は木下に抱き着かれ、スマホの画面を見せられている。これは木下の捕獲モード、放課後に嗣葉を拉致するときの常套手段だ。
嗣葉は「帰ったら速攻ゲームね!」と朝から俺と約束したのに、木下の誘いにまんまと乗って甘い物を食べに何処かに行くようだ。
助かった、これで帰って爆睡できる……。
俺は嗣葉の傍に寄り、「寄り道してくのか?」と分かっているのに聞いてみる。
「あ……悠、先に帰ってて。私、あずと行くとこあるから」
木下は俺をチラッと見て、勝ったと思ったに違いない。だけどな、本当に勝ったのは俺だよ!
「じゃあな、嗣葉!」
嗣葉との予定が消し飛んだ俺はあくびをしながら校舎を後にした。
帰ったら速攻寝よ!
俺は帰り道、気怠い体で自転車のペダルを漕ぎ、部屋のベッドを目指した。
◇ ◇ ◇
夜なのに目が冴える。飯を食って勉強を終えても全く眠くならない。やっぱり、帰って速攻寝たから体内時計がズレてしまったのか? 時計の針は夜の10時を指していて、俺は何となくドリステの電源を入れた。
学習机からベッドに場所を移してテーブルに置いてあったコントローラーに手を伸ばすと早速『お魚の森』の世界に向かう。
霧島さんに追いつかないとな?
俺は早速ゲームの世界を探索して基本プレイを習得しつつ、ポイントやアイテム、ゲーム内資金を調達する。
二時間ほどマップ内を彷徨い、だいぶゲームの基本が解って来た。今日はそろそろ寝るか? 毎日徹夜してたらホントに体内時計が狂っちまう。
俺がログアウトしようとした時、画面の左上に《つぐはさんがオンラインになりました》と通知が届いた。
久々にこの通知を見た。嗣葉とは昔からのフレンド、向こうが電源を入れたらこっちにも直ぐ分かるように設定してたっけ?
ドリステにメッセージが届いた。
『悠、お魚やってるんでしょ? そっち行くから待ってなさい!』
げっ! 今、辞めようと思ってたのに……仕方ない、少しは付き合ってやらないと怒るだろうし……。
《はっぱさんがログインしました》
葉っぱ? 嗣葉のユーザー名って葉っぱなのかよ!
ポヨンと音が出て、はっぱさんが俺の横に現れた。
何だよこれっ!
俺は思わず吹き出してしまった。ナマズ人間が頭に葉っぱを乗せていて、いたずらをする狸みたいなアホズラをしている。
『あ、悠? これからイベントだから行ってみよ?』
画面から嗣葉の声が聞こえた。
「何のイベントだよ?」
『レースイベントだよ、悠はそーゆーの得意でしょ?』
「あ? それ、昨日紗枝……い、いや、冴えに冴えて全部配布アイテム採っちゃったんだよ」
『え~っ⁉ いいじゃん! もう一回行こうよ!』
あっぶねー、余計なこと言いそうになったぞ。だけどもう一回行くのはだるい、どうにか違うイベントに誘わないと!
「他にもイベント有るだろ? そっちじゃ駄目なのか?」
『だーって、アポロキャップ貰えるの、このイベントだけだし!』
「アポロキャップなんて要らねーだろ? あんなオッサン帽」
『ダサアイテムは手に入れておきたいのっ! ねぇ、付き合ってよ!』
はぁ? あれ全部手に入れるの軽く一時間は掛かるんだぞ? いや、しかし、嗣葉に恨まれたら明日が面倒くさいしな……。
そうか……「そんなにアポロキャップが欲しいんなら俺のやるよ!」
俺の提案に乗ってこい、嗣葉。
『やだ、自分で取りたいんだもん!』
じゃあ、一人で行って来いよ! と言いそうになったが、ふと脳裏に嗣葉とゲームで遊んだガキの頃の映像が蘇ってしまった。嗣葉がドリステ5を手に入れてくれて俺と遊んでくれている、中学の時からゲームを離れた彼女が俺の元に戻って来てくれてるってのに……。
「オッケー。んじゃ、行こうか?」
『そう来なくっちゃ!』
俺は子供に戻った錯覚を起こした。また嗣葉とゲームの世界に入浸れる、こんな嬉しい事は無い。
そう、俺たちはゲームの世界では無敵だったんだ……。
◇ ◇ ◇
マジで眠い、結局昨日は夜中の3時まで嗣葉とゲームをしてしまった。
バイト先で商品棚に隠れて欠伸をかき、俺はだるい体をブルッと震わせて姿勢を正す。
霧島さんが買い取ったゲームソフトを商品棚に持って来て「これ、お願いね?」と俺に手渡した。
レジに戻ろうとした彼女は小声で俺に囁いた。
「夜、悠君とまたゲームしたいな?」
ドキンとしてしまった。嗣葉とは違ったおねだりだけど、ちょっと恥ずかしそうな態度が可愛いくて、俺は二つ返事で「いいよ」と返していた。
こないだの霧島さんとの深夜のゲームは楽しかった。まるでデートしてる気分だったし。いや、気分てか、デートだったよな……殆ど。
今日は何のイベントがあるんだろ? 帰ったら調べておかないと。
俺はまるでデートプランを練るような気持ちで夜のゲームを妄想した。
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