第42話 翔太と初恋
—真紀side—
夏祭りの翌日。
私は翔太との会話を反芻しながら昼過ぎまで過ごし、夕方に散歩に出た。
なんとなく公園の近くに来たときに、不意に翔太とばったり会った。
「おう。真紀。」
「よっ、翔太。」
「ここら辺の道とか公園とか、なんか懐かしいな」
「まあ私は今もこの辺に住んでるからそうでもないけど、でも翔太と一緒だったのは懐かしいかも」
「あの頃は色々大変だったな。」
「あれでしょ。あのひとがいなくなってからでしょ。しばらく見てらんなかったもん。」
「まあ、初恋みたいな感じだったから。」
「そっか。もし会えるならまた会いたい?」
「まあね。でもどこにいるかわかんないし。」
私は友人の香奈さんを通じて、社会人になった現在のゆかりさんを知っている。
服装や髪色もメイクもだいぶ変わっているので、あの街でもし翔太が会っても、すぐにはわからないはずだ。
「でも、あの頃真紀が居てくれてすごい助かったし、なんなら今でも、真紀は家族よりも僕のことわかってる気がする。」
「確かに負けない自信あるわ。」
「本当にめちゃくちゃ一緒にいたもんね。僕の家も何度も来てくれたし、真紀の家にも何度も行ったし。」
「そうそう。翔太がどうしてもオムライスが綺麗に作れないからって私が教えたりして」
「あったなー。そうそう、真紀のオムライスは綺麗だけど味が薄いんだよね」
「一言余計よ、ケチャップかければいいでしょ、って言ってね。」
「うわー、この感じ懐かしいな。」
「あのさ、私、あの頃翔太に告白されてたら多分付き合ってたよ。」
多分じゃない。絶対だけど。
「僕も同じかも。真紀からあの頃もし告白されてたら断ってないと思う。」
あの頃同じ気持ちだったとわかっても、別に今が変わるわけじゃない。
「恋って多分、ちょうど心が重なる時を逃したら始まらないんだよ。」
そんなことを話していると、公園のベンチに人影が見えた。
「ゆかりさん・・・」
翔太が立ち止まって呟いた。
「そうだ、私そろそろ夕食の準備があるから帰らないと。今日はオムライス作ろうかな。作り過ぎちゃったらまた一緒に食べてもいいんだけど」
私の悪あがきも空しく、翔太の視線はベンチに釘付けだった。
「全く。本当に世話が焼けるんだから。」
私は翔太の背中を押す。
「ほら、行ってきなさいよ。」
「あーあ、今が私と付き合うラストチャンスだったのに。なんてね。」
走り出す背中に、私はそう呟いた。
翔太の、あの頃より大きくなった背中に、
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