第39話 翔太と幼馴染
実家に帰って数日が経った。
つい数ヶ月前まで住んでいたはずの家も町並みも、全てがなぜかもう懐かしい。
あまり良い思い出はないが、それも含めて過去になったのだと実感する。
僕が小学生の頃、母の浮気と父の家事への不参加が原因で両親は喧嘩していた。その後しばらくはほぼ別居状態だったが、世間体を鑑みて離婚はしていなかった。僕が高校に上がる頃には、父の仕事が落ち着いたからか、母が浮気相手にフラれたからか知らないが同居するようになっていた。しかし、それ以降の冷戦状態もそれはそれで緊張感があった。
そんなわけで、我が家にはいい思い出が少ない。
まあ、帰らない父母の代わりに家事をしていたおかげで、ゆかりさんの家事代行ができたと考えれば、無駄な月日ではなかったと今は思えるけれど。
そんなことを考えながら、アイスを買いにコンビニに行くと、幼馴染の真紀に会った。
「あれ、真紀じゃん!久しぶり〜」
「え!翔太帰ってきてたの?」
「うん。夏休みだからね」
「もう、帰ってきてるなら連絡のひとつでもよこしなさいよ。ほんと気が利かないんだから」
「それは悪かった。でもなんか急に連絡するの恥ずかしくてさ」
「それは普段から連絡してこないあんたが悪いんでしょ。」
「相変わらず口うるさいな」
「まったく、誰のせいだか。で?元気してた?」
「まあね。色々あったけど」
「ふーん。」
口うるさくても、なんだかんだで心配してくれる真紀は、不器用だけど優しい。
中学の途中くらいで思春期を迎えてからは、なんとなく疎遠になっていたが、時間と距離がリセットしてくれたのか、気の置けない間柄に戻れてよかった。
しばらくは互いの近況を話した。真紀は地元の専門学校に行き、今でも実家暮らしをしているという。
「そうだ翔太。明日、夏祭りあるんだけど・・・一緒に行かない?」
「いいね!お祭りなんて久しぶりだなー。」
翌日。夏祭りに真紀は浴衣姿で現れた。
「浴衣かー。いいね。風情があって。」
「いいでしょ!翔太は味気ないTシャツだけど、本当そういうところだよ」
「はいはい」
「フフ、別にいいけどね」
それから僕たちは、射的や金魚掬いにはしゃぎ、綿飴と焼きそばを食べた。子供に戻ったみたいで楽しい時間だった。
帰り道を二人で歩きながら、真紀が僕に笑いかけた。
「翔太、今日は楽しかった?」
「楽しかった。誘ってくれてありがとう」
「なら良かった。実家にいてもしんどいかなと思ってたから。」
こうやって、昔から真紀はいつも僕のことをわかってくれて助けてくれた。
自分を見てくれる、わかってくれる人がいる、それだけで孤独を感じずにいられたことを思い出す。
両親とも折り合えず、初恋のお姉さんも居なくなってしまった小学校高学年から中学くらいの時期は、真紀だけが心の拠り所だった。
そうか。あの日の僕は、自分を取り繕って、世間体をよくすることに精一杯で、ゆかりさんをちゃんと見れていなかったんだ。こんな当たり前のことに、やっと気がついた。
あの頃と同じように、三叉路の前で別れを告げる。
「私も今日は楽しかったよ。またね。」
「じゃあね。本当にありがとね。」
明日、あの公園に行ってみようと思う。
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