第28話 もう一度
—ゆかりside—
翔太くんが作りおきしてくれていたご飯が、ついに冷蔵庫からも冷凍庫からも消えてしまった。
「きんぴらです。多分普通に美味しいので普通の日に食べてください。」
フタに貼ってあったメモを見ながら、私はまた寂しくなった。
「スタミナ炒めです。仕事で疲れすぎて無理、みたいな日に食べてください。」
「鶏と根菜の煮物です。優しい気持ちの日に是非どうぞ」
「クローゼットは物置ではありません。服を分類しながら入れましょう。」
「出した本はここにしまってください。すぐ片付ければ部屋は汚れません。」
部屋の隅々、冷蔵庫のタッパー一つひとつに書き置きされたメモを、私はひとつも捨てられずに残してある。
どの言葉も翔太くんらしくて、声が聞こえてくるみたいだった。
翔太くんと最後にあった日のことを思い出す。
「このままだとゆかりさんに頼りっきりになると思うんです」
なんて翔太くんはあの日言っていたけれど、私の方がよっぽど翔太くんに頼りっきりだった。それが私には幸せだった。
もしかしたら、翔太くんには負担だったのかもしれないけれど。
もう一度会って話したい。このまま終わりたくない。
せめてちゃんとお礼は言いたいし、もし私が負担だったなら謝りたい。
—翔太side—
アルバイトの給料が入ってきた。
かなり忙しく働いていたおかげで、それなりの金額になっていた。
これだけあれば、ゆかりさんを素敵なデートにエスコートできるかもしれない。そしてそこでゆかりさんに僕から告白したい。
あの日からずっとそう考えていた。
急にXデーが現実味を帯びて、緊張してきた。
オススメのデートスポットやお店を調べながら、一つ大きな問題に思い当たった。
そもそも、今の状態でゆかりさんをどうやって誘えばいいんだろう。
あの日以来ロクに話していないので、どう関係をやり直せばいいのかからわからなくなっていた。
そんな折、ゆかりさんからメッセージが来た。
「作りおきしてくれてたご飯、全部食べ終わったよ。美味しかった。ごちそうさま」
最初から今日までずっとそうだ。
僕が動き出すきっかけをくれるのはいつもゆかりさんだ。
「ありがとうございます。もしよければ暇なときにでもまた作りますよ。」
二つ目の文章を入れるかどうかで10分迷ったが、勇気を出して返信した。
その数分後、
「いいの!?ヤッター!じゃあ明日とか来れる?」
と急にテンションの高い返信が来て笑ってしまったが、ようやく心のつかえが取れた。
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