第19話 お買い物
カフェを後にした僕たちは、駅前のデパートの3階に来ていた。
いよいよ本日のメインイベントである。
「まずは、翔太くんオシャレ化計画!」
パフェで元気が出たゆかりさんが、情報番組のロケでも始めるのかと思うほどのタイトルコールをする。
「とは言っても、今日の時点でも髪とか雰囲気はそんなに悪くはないので、服だけ何か良さげな物を選ぼっか。」
「ありがとうございます。」
よかった。一応頑張って整えた甲斐があった。
ひとまずメンズ服売り場を二人で歩く。
普段はあまり来ないので、少しキョロキョロしてしまう。
「なんか好きな服とかある?」
「うーん、派手すぎるのじゃなければって感じですかね。」
「じゃあ、これとかどうかな?」
ゆかりさんが手に取ったのは、オシャレな黒の半袖ジャケットだった。しかし、なんだかサイズが少し大きい気がする。
「かっこいいですけど、なんかサイズ合わなくないですか?」
「いいの。オーバーサイズって言って、ちょっとオシャレに見えるのよ。それで下にはこの白いTシャツとかが合うかな。ちょっと試着してみたら?」
「えーっと」
正直自信がない。
こういうオシャレな服を着ても、服に着られている感じになる気がしてしまう。
「店員さん、試着室借りて良いですか?」
ゆかりさんは店員さんを呼ぶと、ニヤリと笑って僕に小声で言った。
「まあ、一回試してみてよ。私が見てみたいから。」
ゆかりさんはこうやっていつも不意に、僕の心の鎖を解いてくれる。
「どうですかね?」
「いい感じじゃん!サイズもいい感じだね。翔太くん的にはどうかな?」
「なんか、オシャレ大学生って感じです。大丈夫ですかね?似合ってますか?」
「似合うよ。そんな派手すぎないけどちゃんとかっこいいし。」
「ありがとうございます」
「このジャケットなら、あとはTシャツもパンツも無地のキレイめなもので合わせれば大丈夫だと思うよ」
「うちにあんまりちゃんとしたTシャツとかズボンがないんですけど・・・」
「あー・・・。」
こうしてTシャツもズボンも買い、僕たちはエスカレーターで4階へ向かった。
「次は私の服を選んでよ。」
「僕に分かると思いますか?」
「いや、一応男子の意見としてさ。」
「それにゆかりさんもう充分服持ってると思うんですけど」
「気分を変えたいのよ。新しい私になったって感じを伸吾にも見せつけたいし」
「なるほど。」
ゆかりさんが手に取ったのは、大人っぽくて落ち着いたおしゃれな服だった。
「どう?似合う?」
「いいんじゃないですか?可愛いというより綺麗って感じで」
「確かに。」
「そうだ、あともう一個気になるのがあって、この2つだったらどっちかな?」
「えー、どっちもいいですけど、こっちですかね」
「じゃあそれにする!」
僕なんかの意見を参考にしてくれるゆかりさんはとても優しい。
その後もゆかりさんは何着か服を選び、明日のコーディネート以外にも何着か買っていた。
そうこうしているうちに、服を選び終え店を出る頃には夕方になっていた。
「もう結構いい時間ですけど、どうしましょうかね」
「まあ、一応予定は終わったし、決起集会と行きますか!」
「決起集会?二人なのに?」
「いいの!景気づけになんか美味しい物食べて帰ろうよ!奢るよ」
「ありがとうございます。」
「まあ、実はもうお店は予約してるんだけどね」
用意周到だなあ。
僕が好きだと言った服、待ち合わせやすい駅、そこから程近いカフェ、服屋、そしてディナー。
もしかしてゆかりさんは、今日のお出かけをいいものにするために、かなり考えてくれてたんじゃないだろうか。
「何から何までありがとうございます。今日はゆかりさんのおかげですごく楽しいです。」
「よかった。」
「それに、多分さっき見てたみたいな大人っぽい服が好みなのに、わざわざ今日は僕が前言ったこれを着てきてくれたんですよね。すごい嬉しいです。」
「そう。なら着てきた甲斐があったよ。さあディナー行くよ!」
そう言うと、ゆかりさんは急に早足で歩き出した。
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