おねショタの10年後〜お隣さんは初恋の人?〜

端野暮

第1話 出会い 


「ぅぐぁーっ」


ジジイみたいなうめき声を出し、大きく伸びをする。


たった今、配信サイトで昨夜見つけたアニメを12話完走したところである。窓の外が白んでいる。



もう5時か、小腹空いたなあ。



せっかくのゴールデンウィークだからと夜通しアニメを見漁っていたらこんな時間だ。かなり満々満足ではあるが、頭はガンガンするし、腹減ったから少し散歩してコンビニで何か買おうかな。

部屋に放ってあった適当なパーカーとジーンズをとりあえず着て、スマホと財布と鍵を適当にポケットに入れ、ワイヤレスイヤホンからさっき見たアニメの主題歌を流しながら部屋を出た。




階段を降りたところに、スーツ姿の女性が倒れていた。



えぇ・・・。マジでこういうのあるんだ。



面倒だし放っておきたいけど、まだ朝晩は肌寒い時期だし、このまま死なれでもしたら寝覚めが悪い。


近づいてみると息が酒臭い。どうやら酔い潰れて寝ているだけのようだ。


見たところ僕より少し年上くらいであろう、可愛い顔をした、綺麗なワンピースで着飾った女性が、その姿とはあまりに不釣り合いな寝方で爆睡している。


通報して警察や管理会社が来ても手続きが面倒そうだし、とりあえず肩を叩いて声をかけてみる。


「おーい!大丈夫ですかー!」

「んぅ〜」

「大丈夫ですか!?こんなとこで寝てたら風邪ひきますよ」

「へ?」


寝起きだから仕方ないのだろうが、要領を得ない返事しか返ってこない。


「ちょっと待っててくださいね、水買ってきますから」

「は〜い」


すぐ近くの自動販売機で水を買いながら、別にこのまま放っておいてもいいんじゃないかという気にもなった。

でも、なんとなくそうしたくなかったのは、彼女の気だるげな返事が可愛かったからとか、そういう理由では断じてない。

ないったらない。


「はい、お水です」

「ありがと〜」

こんな状態でもありがとうが言えるということは、どうやら悪い人ではなさそうだ。


水を飲むと彼女も少しだけ落ち着いたのか、最低限の応対ができるようになった。


「おうちはここのアパートですか?」

「うん」

「お部屋は何階ですか」

「301〜」

いや、うちの隣の部屋じゃねえか。こんなやつが隣人なのかよ。ちょっとしんどいな。


「自分で階段登れますか?」

「無理〜。おんぶ。おんぶして〜。」


赤子のようにせがむ彼女を、なぜか放って置けなかった。

いや、下心とかそういうのじゃないからね!

ハイヒールだと歩きにくそうだってだけだからね!



階段を登りながら、背中に感じる暖かさから、人をおんぶしたのは初めてだと気付いた。そういえば、10年前は夕暮れの公園から家まで女子高生のお姉さんにおんぶされて帰ったこともあったっけ。今思い返すと役得だったし、何よりあのひとはいい人だったな。

あの頃のあのひとと同じ歳になって、やっと僕も人を背負えるような大人になれたのかな。



「シンゴー、シンゴー!」

酔っ払いながら女性はなぜかそう叫んでいた。



ふざけてんのか。せっかくの感傷が台無しだ。あのひととは大違いだな。

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