第5話 発見! そして追跡
人の頭をもった
膝まで生い茂った草を剣先でどかして地面を見れば、いたるところが泥の状態である。
「しばらく雨は降っていないが……」
俺の言葉に、パトレアが前方を指差した。尾根が見えるが、その先にこんもりと盛り上がるドーム状の丘を見つけた。用がなければこんなところを歩かないのでこれまで発見されていない墳墓の入り口ではないかと予想すると、あたりだった。
「でかいな……」
入り口はでかい洞窟のようで、地下へと潜るように先は続くが暗闇で見えない。
パトレアが光を作り出す。
「
洞窟は一本道で、二人でお互いを見た。
「荷物、どうしましょう?」
「中がどれだけの規模かわからない。水や食料は置いていかないほうがいい。迷った時、困ることになる……斥候が欲しいが今からグーリットに引き返して募集をしてとなると時間がかかりすぎる」
「ええ、それにわたしはもうスッカラカンです」
俺は苦笑する。
「教団に依頼できないか?」
「証拠がありません。貴方が
「教団批判のように聞こえるけど?」
「訂正します。ネレス司祭が信じません。頭がかたいんです」
二人で笑い、テントや寝袋といった荷物をおろして、水筒と食料を俺が背負い中へと進む。
「水筒の水が半分になったら引き返す。いいな?」
俺の案に、パトレアは頷く。
「ええ、わたしも死にたくはありません」
彼女が創り出した光に導かれ、俺達は地下へと続く道を下って行く。すると、奥には内側から破壊されたような石扉があった。
やはり、この奥だなと先を見通すと、ぼんやりと明るい。
「誰かいますね……」
パトレアの言葉は、俺が思っていたことと全く一緒で頷きを返した。
一気に進むべきか、慎重に進むべきか。
俺とパトレアでは、俺が斥候兼前衛を務めると理解すべきだ。
「慎重に行こう」
「はい。
「おとなしく捕まってくれたらいいけどな」
「……」
そんなことはわかっていますという顔の彼女へ苦笑を返し、左右の岩壁に何か仕掛けがないかと注意する。
ここで彼女が魔法の光を消した。
しばらくその場で止まり、目を闇に慣れさせる。
水の音は、天井部分から滴る水だとわかった。
奥へとゆっくり歩く。
五〇メートルほど進み、手信号で停止を伝えたが、戦働きが彼女にはなかったらしくぶつかってきた。
「いて!」
思わず声が出てしまった……。
奥から、ガタンという音が聞こえる。
逃げられないように走るしかない。
「追うぞ!」
「もう! 声を出すからです!」
あんたのせいだ!
明るい場所は円形の部屋で、動物や爬虫類の死体がいくつも転がっている。そして人間――奴隷市場で買ったと思われるのは、肩から腕の形を留めていた部位に、番号の焼き印が確認できるからだ。
その部屋の奥には、さらに通路が続いていた。
俺は足元に転がる石を拾い、その通路へと投げてから加速する。
待ち伏せていたなら悲鳴があがるはずだと思ったが、音はしない。
ただ逃げたのなら、厄介な相手だ。
こういう場合、ひたすら逃げることを決めていて、その準備もしていたと推測できるからだ。
通路の奥、さらに地下へと下る道を駆け抜けると、松明に照らされた桟橋が地下の川へとつき出ていた。
小舟を係留していたと思われる綱は切られている。
「逃げられましたね……」
俺が振り返ると、非難するような目で俺を見るパトレアと目があった。
「あんたがぶつかってきたからだ」
「いきなり止まるのが悪いです」
「手信号を出しただろ」
「そんなの、事前に決めてくれないとわかりませんよ」
いちいち決める必要がないくらい有名なやつなんだよ……。
ともかく、ここから出よう。
「喧嘩は後にして、出よう」
「調査隊を派遣してもらうよう上にかけあいます」
「証拠に、何かを持って帰るか?」
二人で先ほどの空間へと戻る。
戦い慣れた俺でもなかなか気持ち悪い光景だが、パトレアは平気な顔をして転がる死体をあさっていた。
「慣れているのか?」
「聖女ですから、魔と戦うのは日常です。奴らを追うと、こういう光景はよく見ます」
「
「ええ」
証拠を物色しながら答えられた。
「レーヌ河に通じているとしたら、河を下って……グーリットに逃げ込む」
「グーリットの住人てことですか?」
パトレアは奴隷の右肩から手までの部位を掴んでいた。
肩の焼き印を証拠にしたいようだ。
焼き印の番号から、買い手が見つかるのではないかと期待したらしい。
「まさか腕ごと持って帰らないよな?」
「まさか」
彼女は素早く祈ると、焼き印の箇所を短剣で削ぐ。
ひるまずによくやるよ……。
「鷲の頭の
「いったん、グーリットに帰りましょう。さっきの
「わかった。出直す時は誘ってくれ。傭兵ギルドのヌリに言ってもらえたら俺に伝わるから」
「付き合ってくれるの? 今日の分でちゃんと報酬は払いますが?」
「教団が討伐隊を派遣しない場合は手伝う。途中で抜けるのは気持ちが悪い」
「ありがとう」
「じゃ、帰って飯をおごってくれ」
「それ、わたしが作るのでは駄目? 十万リーグを貴方に渡すと、本当にスッカラカンなのよ」
「……教団施設でご馳走になるのは味がわからなそうだから、金ができた時でいい」
俺は周囲を眺めた。
円形の空間には、石扉が複数あったが閉じられたままである。
「墳墓の調査をすれば、教団の活動資金になるお宝が出てくるかもしれないぞ。今度、本格的に調査をしたらどうだ?」
「ギルドに依頼を出してみましょうか……利益は人数で分配」
「教団はこういうのはやっぱりしないのか……」
彼女は薄く笑う。
「わたしの上司が許可しないと思います」
なるほど。
さきほど名前が出ていた奴だな。
「上にあがりましょう」
「ああ」
俺たちは帰路についた。
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