14.私は主役じゃないけれど

 昔から同級生よりも身長が高く、手足も長いので「モデルさんみたい」と大人達から言われていた。


『将来の夢はなんですか?』


 と聞かれたら、その頃の私はみんなの期待を応えるように


「モデルになりたいです」


 そう答えることが正解だと思っていた。けれどそこに強い気持ちはないけれど。


 年齢を重ね、ある程度、自分で物を考えられるようになると、モデルとはどんな仕事なんだろうと興味を持ち始めた。ファッション誌を買ってみたり、テレビに出演していたモデルを眺め、漠然とした憧れは持ったが到底自分がなれるとは思わなかった。


 大きなきっかけになったのは、ファッションショーを見に行った時のことだ。自分が推しているモデルさんが出演するとのことで、お小遣いを前借りしてチケットを購入した。


 一般人でも買えるショーはエンタメよりに近いが、そこで見た光景は今でも忘れられない。


 自分と同年代くらいの若い子が、今か今かと心待ちにしている様子。会場が暗転すると騒がしかった客席は静まり返り、これからモデルが出てくるステージへと注目が集まった。


 邪魔しない程度の曲がかかり、独特なヒールの鳴らす足音が会場に響き渡った。会場の視線は一人の女性に奪われる。存在感はあるはずだけど、あくまで主役は服だ。


 モデルさんが歩くたびに、光の加減や動きが加わることで、服は全く違うを顔を見せる。例えば、雑踏としているスクランブル交差点を歩く姿。例えば、陽が落ちた砂浜を歩いている姿。どんな背景を自分がその服を着て歩いているか想像は容易に出来た。


 心臓の主張が止まらない。憧れ、尊敬、嫉妬。様々な感情がごちゃ混ぜになってしまう。全身に鳥肌が立って、私の映る景色は端から歪んでいった。


 自分もああなりたい。絶対になってやるんだ。


 場違いだとも心の片隅には思ったが、自分の十年後は注目を浴びながら歩く姿しか想像できなかった。


 それから私はスカウトされ、順当にファッションモデルとして雑誌にデビューした。視聴率の取れていない地方の番組だったが出演することも出来た。


 そして憧れの舞台に立つチャンスを掴む。


 けれど違った。あれだけ憧れていて、あれだけ立ちたかった舞台に立てたのに、心は踊らない。もちろん嫌な仕事も夢に繋がるならと受けたこともある。けれどこの仕事を嫌いになったりしたことはなかった。


 もしかしたら、業界の最前線で戦っている自分の姿を想像出来ないからしれない。自分の力はここまでなんだと、納得してしまったから。



「もうこれくらいで良い?」

「ありがとう。どうしても琴水さんに聞きたかったんだ」


 私は背中を軽く叩いて押し出してあげる。


「頑張って。ちゃんと舞台袖に見ているから」

「うん、見てて」


 彼女は力強く歩き出した。一歩、また一歩と足音を鳴らすたびに、変化していく空気が肌を刺激する。


 私は今、現役モデルのマネージャーとして身を粉にして働いている。十年後に思い描いていた姿とは異なるが、業界には関わっていた。


 きっと物語にして見れば、私は羽ばたくモデルたちを口うるさく指導する脇役で、主役にはなれないのだろう。


 けれど、脇役でも悪くない。


 そう思わせてしまうほど、彼女たちはかっこいいから。

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