青春オートマティック
所狭健
第1話
生気のない叫びに耳を傾けて、すぐに燃えてしまう汗を浴びる。青だけ残して春を失ったひどく捻れた人間は生産ラインで妄想をする。失ってしまった現実を求めて...
成長しきれなかった心の中の少年は、止まらない好奇心を脳内で爆発させている。悲劇のヒロイン気取りで時の流れに身を任せて何十年も経ったような気がしてくる。
怠惰が怠惰を呼ぶ負のスパイラルに抗おうともせず、ただ時を過ごしてきたのだから学など当然あるはずもなく。
頑丈な土台によって形成された人間関係など建設できるわけもなく。ただ、無常にも回る歯車を見守るしかないのだ...
空回りした脳内で、お手本のような痛々しさを見事に炸裂させたところで昼休憩の時間になった。
空虚は友達だ唯一といってもいい。
だから寂しくなどない。同僚たちの楽しげな会話をBGMにしながら味のしないおにぎりを、ただ頬張る。
声を上げた悲しみは歪んだ理性で蓋をされる。
孤高の食事会を終え、また無心で機械と向き合う。変わらない。同じ感覚で、同じスピードで。
余りに持て余された時間を有効に使えるわけもなくただひたすらに、隼雄は過去を見ていた。
ちょうど1年前だろうか。
受験シーズン真っ只中で多くの若人達の汗水が排出されていた頃、ただひとり水分を補給していたんだ。
もう必要ないのに。自分の選択に自信が持てなかった。
学生の本分を投げ捨ててまでやりたいことがあるわけでもなく、群を抜いた才能があるわけでもない。それなのにも関わらず逃げたんだ。
耳をすませば聞きたくもない励ましが聞こえて来る。「この年で働く決心をするなんて立派だ。」そんなわけない。
いや、一理はあるかもしれないが自分は違うんだ。
準急すら止まらない田舎に唯一差し伸べられたレールに、途中まで乗っていたんだ。でも降りてしまった。甘い声をかけたんだ。どうしようもないほどの囁きを悪魔が耳元で。
電車から降りた瞬間は、身の回りについた錘が取れたことによる解放感にかけがえのない喜びと解放感でいっぱいになった。が、同時に現実の厳しさを肌身で感じることになった。
一時の感情に任せた行動は即席麺に通ずるものがある。作るのは一瞬ではあるが冷えて固まるのもまた刹那に行われてしまうものだったのだ。
雲が去って、はちきれんばかりの灯りを爛々に灯している太陽が出てきたことで
やっと僕のくぐもった人生に晴天が差し込んできたと思ったのに...
「おーい。もう昼休憩は終わりだぞー。遅れるんじゃないぞー!」
男らしさ満載の野太い声が現実へ引き戻す。
「おーい。聞こえてるかー。まさかお前...」「すみません。今行きます。」
清々しいほど耳に響く声に対して、あまりのか細さに逆に清々しさを感じるほどの声で返す。綺麗なメタファーだ。
なんせ野太い声の発信者は筋骨隆々の権化と言っても過言ではない全身筋肉アーマー男“達川重次”なのだ。
誰にでもなりふり構わず話しかけ、どれだけ相手がガードに身を徹していようともろともせずに打ち破る圧倒的なコミュニケーション能力の持ち主である達川は、その威風堂々さがあまりにも現代の若者像とかけ離れており、その超越者ぶりはアニメや漫画のキャラクターを彷彿とさせる。
彼を見ていると途方もなく強いものに憧れた少年時代の純粋な好奇心が、今の根拠のない嫉妬心に無邪気に手を振ってくるのがとても堪え難く嫌いだ。
とめどなく溢れるくだらない妄想を脳内で垂れ流しながら、俺はまた夢も希望も生み出さない生産ラインの元へ足を運んだ。
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