第30話 我が道を行けた…と思った

 「神童の秘境」だって。


 アイラが引き篭もってる沼地は瑞獣霊亀キィちゃんのお陰で、人が踏み込めない秘境と化してる。


 それもあり、またヒガンザタンサラスの豊作が続いているのもあって、私が此処に居る事は王国中に知れ渡ってるとか。


「コッチは助かるんだけどなぁ。お前さん、ホントに良かったのか?」

「えー?」


 ギルドの一室。

 私の相手?をしてくれてるのはギルドマスター・スレインさんと人気受付嬢のレーナさん。


「私に出て行って欲しい?うん、まぁ、トラブル持って来る厄介者って自覚はあるけど」

「ギルマス?」

「おーい、その歳でスレてくれるなよ」

 困り顔のスレインさんと、ケラケラ笑う私とレーナさん。

 今、私にはキィちゃんの幻惑魔法がかかってる。髪や瞳の色は勿論、顔付きだって変わってる。歳や背格好も変えて欲しかったけど、そうなると幻惑魔法じゃなくて変身魔法の領分らしい。


 なんか、色々面倒くさい事になるんだとか。

 キィちゃんが言うから、そうなんだろ。


 まぁ、4聖神獣のかける魔法だから、ただの幻惑とは一味違う。私を知る者、私が打ち解けている者には効かない様になってるとか。


 だからギルドマスター・スレインさんやレーナさん、門番のオジサンに肉屋のオバチャン、屋台のオジサン。あれ?割と多いわ?

 どっちにしろ、私に悪意を持つ者には隠蔽に近い幻惑となるみたいで。


 で、スレインさんが聞いてきたのは、私がこのヒガンザタンサラスから動かない事への本音。スチュワート辺境伯は親戚筋だし、そこへの移動はお兄様ポールの提案。私がココに居座る理由が、実はあまり無い。

 せっかく馴染みの店とか出来たから。

 つまりは、ただのものグサなんだよね。

 引っ越しって、何かと面倒じゃん。


 まぁ、辺境伯領の土地が痩せているのは水の手不足も関係していて。だからキィちゃんがちょい住み難い場所でもある理由で。


 瑞獣霊亀スピリッツタートルの前世がキバラガメキィちゃん。90cm水槽で飼っていた20cm程の甲羅の亀が、元々の私のペット。小学校の入学祝に買って貰った5cm程の小亀ミドリガメを13年飼い続けてきた。一緒に歩んで来た相棒とも言えるペット、それだけ思い入れも大きい。

 また大地魔狼ガイルフェン霊鳥鳳凰フェニックスが住み良いかって言うと、そうでもないし。


 皆は「何処でも一緒。気にする事ないよー!」って言ってくれたけど、わざわざ難儀なトコへ引っ越す必要ないよね。


「処で、何の用?」

「あ、聞きたい事があったんだ。その、ダッカード侯爵領の事なんだが…、何した?」

「何も?あ、そう言えば、何か、お館のお庭がグチャグチャになったって?」

「そこに『穀倉地帯が、こうならなきゃいいね』等書かれた手紙が有ったって聞くが?」

「そうなんだぁー」

「……………」


 私も悩んだんだよ。その、仕返し…、って言うか、警告って言うか。

 侯爵領の小麦畑は、ギリ領内を賄える程度の収穫らしい。この辺りはコロの見立て。大地の聖獣は、大地から得る収穫物を大凡把握出来る。だから1回の不作で、領がどれ程困窮するか割り出せる訳で。

 実際にやったら、私は民を不幸たらしめる魔王みたいになる。出来る訳無い。でも、自慢の庭園をメチャクチャにされた侯爵は、これが穀倉地帯だとしたらと、それ位の想像は出来たみたいで。

 それに、コッチが求めたのは「手を引く」事。謝罪や賠償を求めてないし。


 と、言う訳で、最近は実に静かな日々を過ごしていたんだけど。


「それと、もう一つ。実はな。お前さんを王宮に招待したいって来てるんだよ」

「はい?」

「国王陛下が会いたがっておられるんだよ」


 …スローライフへの道のりは、マジ遠いわ。

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