第25話 お兄様、動く

「ご尽力戴いた事は感謝します、お兄様。でも」

「まだ戻る気はない、か。リディアはそろそろ実力行使に出そうなんだがなぁ」


 う…。

 確かにリディアお姉様の方が直情型だわ。

 何度も手を引かれ、連れ回された事か…。


「まぁ、そっちも何とかするよ。とりあえず、こうして家にも招き入れてくれたのだから。私はまだアイラから縁を切られていないようだし」

「それは…、家名は捨てましたけど、お兄様はお兄様です。私も、妹である事を捨てたつもりはありません」


 ピィー『子供兄妹の会話って思えないわ』

 ガォオオーン『それな!』

 クヮアー『2人とも妙に大人ぶってるし』


 お兄様は兎も角、見た目は美幼女でも私の中身は20歳オトナなの。


 ピィー『美幼女って言い切ったわ』

 ガォオオーン『オイラは否定しないぜ』

 クヮアー『この世界のアイラはね』


 キィちゃん?


 クヮアー『おっと、前世のアイラも良い人だったよ』


 何、そのとってつけたフォローは?


「それでね、アイラ。この件にスチュワート辺境伯の力を借りようと思うんだよ」


 スチュワート辺境伯って、サイモン公爵お父様の従兄弟で国王派の重鎮?国境守護の任を持つ国王派随一の武力を誇る方よね?


「辺境伯は国王派の中でもかなり思考の柔軟なお方だ。アイラにも好意的だったろ」


 言われて顔を思い浮かべる。

 あの、特徴的な頭…、お若いのに後頭部に気持ちしか無い髪が……。


「叔父上…まぁ厳密にはアレだが、そう呼べって本人の希望だし…、うん、叔父上を巻き込み、何とかアイラの死亡報告が誤報の形に持っていきたい。叔父上が秘密裏に治療していて父上は気付かなかった、とかね。予断を許さない状況だったから死亡報告を覆すのに時間を要したと」

「そんな大事。私は家名を捨てたのですよ、お兄様」

「私もリディアも、また3兄妹として暮らしたいのだよ、アイラ。その為の労は惜しまないつもりだ。だから、そんな悲しい事は言わないで欲しい」

「お兄様…」


 ポールお兄様もリディアお姉様も、ホントに頑固。何が何でも私を戻そうとするなんて。


「それじゃあね、アイラ。4聖神獣よ、アイラを頼みます」


 キィちゃんが幻惑魔法と守護魔法をかけて、お兄様は洞窟を出て行かれた。


 外は相変わらず、貴族の影が張り付いてるみたいだけど。多分お兄様は街の手前くらいに行かないと幻惑魔法が解けないと思う。だからココが見つかりっこない。


 パタパタパタ。


 カナが、上部光取窓から外に出て行く。外の監視含めて、森の中で過ごすつもりだ。


 チャプン。


 水汲み場からキィちゃんも水中に入っていく。

 これ、外の沼地に最終的に繋がっているから。


 コロは、このまま丸くなって過ごすみたい。

 寝ている様に見えて、実はコロは洞窟の保守点検を随時やってる。この洞窟を創ったコロは、中でゴロゴロしていながらも補修と改良を続けてるんだ。空気の通り道とか色々作ってるし、お陰で熱気が籠らない仕組みになってる。勿論酸欠もあり得ない。水路も見てるし、水は常にキィちゃんが浄化してるし。


「そうそう。お芋の収穫しなくっちゃ」


 洞窟裏口から森の奥の畑へ。

 まぁ、奥は森って言うより果樹の林になってきてるけど。もう少ししたら、コッチも収穫だよね。どんどん実が大きくなって色付き始めてる。


 この恵みの加護が、街の周りの畑にも及んできてるみたいで、ヒガンザタンサラスは今年大豊作なんだって。


 …私の所為じゃないよね。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「珍しい来客だなぁ。先触の手紙鳥が来た時には何があったのかと驚いたんだぞ?ポール」

「ご無沙汰しています、ジャン叔父上」


 アイラと別れて1週間後。

 ポールは、辺境の地リスタルブライズへ、スチュワート辺境伯領都へ赴いていた。

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