第16話 私達がやらなくちゃ

「父上。何故ですか?」


 正面から父上を睨む。


「メイドの娘だから。平民の娘だから。それはあるでしょう。だがアイラは顔こそメイドのティアナにそっくりですが、髪色と瞳は私やリディアと、父上と同じ銀髪にライトグリーンです。間違いなく父上の血を引いている」

「ならばこそだ。儂の血を引く者が才能スキル無し等」

才能スキルはある!先刻そう言いました。それも類を見ない程のレアな物が」

「な、何?」

「何度も言いますが、アイラは家名を捨てています。あの娘が当家に何ら迷惑をかける事はもはや無きものと考えていいでしょう。ならば当家も無関係を装うべきです。刺客等我が家の恥の上塗にしかなりません」

「な、な、何を」

「父上。公式に病死を発しています。アイラ自身その事を鑑みて家名を捨てたのです。その想いに報いる事が出来ぬ程、あの娘に情は無いのですか?」

「ぬ…」


 リディア程ではないにしても、父上もアイラを可愛がってはいた。少なくとも5歳の判定前までは普通に教育もしていたのだ。


 尤も、普通ならざるくらい頭の良い娘になった気はするが…。


「そ、そうじゃな。儂とて親の情が無い訳では…。よいわ。それ程まで言うのならば、あの娘が何処でどう生きようと儂はもはや知らぬ。それでこの件はしまいじゃ」


 よし!

 やっと刺客を諦めてくれたよ、アイラ。


 君を我が家に戻すには、今少し時が必要だが。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 沼の畔の奥の果樹林。

 大地の聖神獣ガイルフェンと水の聖神獣スピリッツタートルがいるから、色んな果樹が色んな時期に実りをつけているの。


 今はチョッピリ酸っぱい、地球で言うところの柑橘類が実ってる。

「すっぱー。へへ。病みつきになるなー」

 ピィー『アイラ、食べ過ぎ』

 クヮアー『太るよ、アイラ』

 ガォオオーン『昔っから、がっついてたもんな!』

「うるさいな。小さい頃は成長期だから、いっぱい食べるべきなの」

 ピィー『モノには限度があるわ、アイラ』

 クヮアー『6個は食べ過ぎ』

 ガォオオーン『運動だ!オイラと競争しようぜ』

「出来るかー‼︎」


 やっと、刺客が来なくなった。

 落ち着いた?

 お陰で平穏な毎日を送ってます。


 ピィー『そう言えば、アイラ。この辺恵みが増えたから、アタイみたいな鳥眷属が渡って来てる。増えて来てる』

 ガォオオーン『だからか。野鼠やゴブリン、犬っコロアタックドッグも増えてんだ』


 あれ?待って?

 それだと、連鎖的にオークとかオーガとか、ゆくゆくは魔狼フェンリルとか大鷲ルフとかも獲物狙ってこない?


 私が懸念を伝えると。


 ピィー『そこ迄の連鎖になると、数年ががりだと思うけどな』

 ガォオオーン『西は不毛の岩山だ。あり得るかもしんねぇぜ』

 クヮアー『どっちにしろ、アイラは僕の加護があるから大丈夫だよ』


 それは嬉しいけど…。

「聞いてみよっか。どうせ、昨日作った干し肉売りに行かないといけないし。素材もあるし」


 そう思って、また街へ繰り出したんだ。


 そしたら、何か、街が騒然としてて。


「何?どうしたの?」

「おや、アイラちゃん。今日もお使い?なら早く済ませて直ぐにお帰り」


 商店街のお肉屋さん。

 拵えた野鼠の干し肉を売りにきたら、おかみさんのミラおばちゃんから、焦り気味に言われたんだ。


「え?どうしたの?」

「この先のタラスの森にね。グレートボアがいるみたいなのよ」


 グレートボア?

 あのイノシシの怪獣みたいな奴?


 お肉はとっても美味らしいんだけど、牙も凄いし、何よりもその突進力!下手すると街の城壁くらいはぶっ飛ばせる位の破壊力がある。

 鎧なんか無いのに皮は固くって、そうそう刃も入らないとか。兎に角、走らせると被害は甚大。動かない様にして倒すしかない厄介なランクBの魔物。


「何でそんなのが?」

「ほんとねぇ。今、近衛兵とギルドで討伐隊を組むって話だけど、ランクBなんて魔物を倒せるだけの冒険者が今街にいないのよ」


 ヒガンザタンサラスの周りにいる魔物は、その殆どがランクDやEだ。Cはオーガ位で滅多に現れない。だから冒険者のランクもDが殆ど。


 ちなみに私はFね。


 でも…。

「コロならヤレる?」

 クヮアー『3頭の誰でも大丈夫。4聖神獣がBなんかに手こずる訳無いよ』


 私達が、やるっきゃない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る