第14話 ごめんなさい、お兄様

 私達は馬車の中へ。

 馬車は、もう手続きが終わってるのか、そのまま街門を通って行く。


「お久しぶりです、お嬢様。ご健勝で何よりです」

「セバスチャンさんも。お兄様達と一緒に来たんですね」

「お館様がお子達だけで旅をさせる筈がありません。この馬車に私とメイド2名、周りに護衛騎士数名がおります」

「お兄様達が旅人風の意味無くない?それと、お手紙で『会いに来るのもご遠慮下さい』って言いましたよね」


 むにー。


「い、いひゃいれす。おねーひゃま」

「どのお口がおっしゃるのかしらね。この伸びーるほっぺの真ん中にあるお口かしら?」


「あれだけ泣いて、駆け寄ってしっかり抱きついては『会いたくない』とは誰も信じませんよ、アイラお嬢様」


 だって仕方ないじゃん。

 私の中には、本来の幼女アイラの記憶と心もあるんだから。


「まぁ、表向きは王都の魔術学院入試の為だけどね、リディア」


 そうか。リディアお姉様も11歳。初等学校を卒業して専門教育を受ける段階になっているんだ。

 ちなみにポールお兄様は16歳。魔術学院を首席卒業して王立大学院に進学する事になってる。


 私は…学校処ろか、教育受けさせてもらえそうにないよ。


「だから明日には此処を発たなきゃ。アイラ。父上は必ず説得する。してみせる。一緒に帰ろう」

「そうよ、アイラ。私達に任せて欲しいの」


 やっぱり、そうきたか。


「その、ごめんなさい、お兄様。お姉様。お手紙でも書きました。私は"サイモン"の家名を捨てました。これ、見てください」


 冒険者として登録したギルドカードを出す。


 そこに記載されている名は『アイラ』。

 家名は無い。ギルドカードは女神の御技による魔導具で造られるから、私が家名を捨てた事を神が認めた事になる。


「これは?そんな!神が、女神フェリシアがお前を平民だと認めたと言うのか?うん、この才能スキルは?」


 才能スキル:〇〇使〇


「やはり、何か才能スキルがあったんだな。ギルドカードにも記載されないとなると、判定の儀で確認出来ないものだったんだ。だから才能スキル無し、とされたんだな」

「お兄様。そんな事よりアイラが家名を捨てた事が問題ですわ。アイラ!本当に、本当にもう帰らないつもりなのですか?」


 本当に、私はお兄様、お姉様に愛されてる。

 改めて実感できた。嬉しい。でも…。


「この街で冒険者やって、生計立ててます。何とかなってます。ギルドの人々や商店街のおばちゃん達。みんな私を助けてくれるんです」


 魔物の素材を売りに出す事。

 薬草摘みやお使いの依頼。


 幼女でも何とか出来る事。それらをこなしつつ、地道にギルド貢献と依頼達成率をあげていった今、私の冒険者ランクはGからFに上がった。


 いや、まぁ依頼30件達成で自動昇格なんだけどさ。5歳児がやるから皆んな褒め称えてくれるんだよ。


「この才能スキル、公爵家では使い様が有りません。でも此処で冒険者やる分には有用なんです。だから、ごめんなさい、お兄様、お姉様」

「アイラ…、そう…だね。此処の方がアイラは幸せに暮らせそうだ」

「お兄様!そんな‼︎」

「セバスチャンさん。馬車を止めて下さい。私は降ります」

「アイラ!」


 ポールお兄様も頷く。セバスチャンが合図を出し、ゆっくりと馬車が道端に寄って停まる。


「私は元気です。後、お父様の説得、よろしくお願いします」

「そうだね。刺客はやめさせるよ。任せて」


 馬車からピョコンと降りる。

「会えて嬉しかったです、お兄様、お姉様。ご機嫌様」


 馬車はそのまま、入って来た入り口と反対側の方へ。コッチが王都の方角。


 私を涙目で見るお姉様と、しっかりと見ているお兄様。諦めてくれたと思ったんだけどなぁ。


「お兄様、本当に」

「アイラも頑固だしな。でも、私も諦めは悪いんだよ」


 馬車の中で、ポールお兄様は密かな決意を固めていたらしいんです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る