第7話 この子、どこの子?

 少女…アイラとか言ったか?

 何を聞いても泣いてばかりだ。


 フォルトとしては、あの沼地の畔の事を確認したいのだが…。


「フォルト様、シャトナー伯がお呼びです」


 御領主様が?何故此方に?


 少女達がいる一室の隣の部屋。

 そこからは壁にかかる幻惑の魔法のお陰で、隣が見渡せる様になっている。あの部屋からは壁にしかみえないのだが、部屋を見渡せる窓があるのだ。


 御領主、ジェイムス=シャトナー伯爵はそこで彼女を見ていた。


「御領主様、お呼びと伺いましたが…」

「気になる事があってね。この目で確かめておきたくてね。あの子だね。君が言っていた沼地に住んでいるやもしれぬ少女とは」

「私自身、突飛な考えとは承知しております。ですが、どうしてもそう感じてしまうのです。あの様な森の中で暮らすには、彼女はあまりにも幼過ぎます。ですが、あの時見た光景。日に閃く髪の色とか、あの子にしか見えません。それに、あの時そばに居た大きな亀と狼も気になります」

「ふむ」


 何か考え込んでいた御領主様は、被りを振って部屋を出ていかれてしまった。


 いったいあの子に何が?


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 何を聞いても泣いてばかり。

 もう、お父さんったら、どんだけこの子を怖がらせたと言うの?


「レーナ、これ以上は無理じゃないか?その子の負担も大き過ぎるし、どうもこの子は、この辺りの地理がわかってないみたいだ」


 ギルドの上役スレインさんも、そう思ってるんだ。


 でも、何か違和感があるのよ、この子。


 ギルドで換金受付した時にも感じたけど、この子の書く文字、とても綺麗だった。お金もわかっていたし、計算も出来る様にみえた。


 見た目は兎も角、印象が子供っぽく無いのよね。

 後、髪や肌の綺麗さと衣服の粗末さが不釣り合い。なんて言うか、貴族の子女が、わざわざ捨てられていた衣類に着替えてきたかの様な雰囲気があるの。

 衣類にしても、粗末過ぎる割には綺麗に洗ってあるみたいだし。それにところどころ繕ってる箇所も見受けられるし。


 だから変装用に用意されたボロ布着だと思うのだけど…。


「今日も素材の換金に来たのかな」


 ベソかいて、しゃくり上げながら頷く子供。

 ポシェットから牙や魔石を取り出す。


 …アタックドッグだわ。ほぼ野生化した犬。

 攻撃力も動きも大した事はない魔物。ゴブリンやウルフのエサに狩られる程度の魔物だけど、それでも子供に倒される筈がない。


 処理も丁寧で綺麗。


 結論。誰か大人が一緒にいる。でも、ならば何故、この子1人にお遣いをさせるんだろう。身動きとれないのかしら?


「ね、これ、お父さん?それともお母さんがしたのかな?」


 は?被りを振る?


「いない…」


 え?この子、両親いないの?そう言ったの?

 それとも…。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 ギルド内の隠し部屋。

 そこから見て、やはりと思った。


 ジェイムス=シャトナーは彼女に会った事がある…。


 サイモン公爵家の御息女だ。


 名も"アイラ"だったし、容姿も数年前の記憶と一致する。


 尤も、確か公爵がお気に入りの侍女に産ませてしまった子だったが…。産後の肥立ちが悪く侍女は亡くなったと聞いた。

 彼女を喪った哀しみをぶつけられつつも、娘として認知し養育していたのだが…。


 そう、あの子は…。

 『鑑定』前に病死したと公表されている。


 だが、闇の噂も聴こえてきた。


 曰く「才能スキル無しの子だったので処分されてしまった」のだと。


 あの子が本当に"アイラ=サイモン"ならば、あの森の沼地近くに捨てられたという事になる。つまり噂は事実だったと。


 才能スキル無し。


 本当に?

 何の才能スキルも無い幼女が、あの森で生きられるのか?


 彼女は…、何者だ?

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