箸やすめエッセイ 5 浦島わたし太郎
時刻はどれくらいだったろうか?
もうはっきりとは覚えてないけど、夜遅くだった。
わたしは心斎橋筋をとぼとぼ歩いていた。そこから宗右衛門町の通りへと入って直ぐのこと。
けっこうぼけっとした顔してたんじゃないかなと思う。
いきなり20代前半の少し派手目の女性が声をかけてきたかと思うとすれ違いざまに、わたしの腕は強引に引っぱられた。
「ご飯食べに行こう!」
その女性はものすごくごきげんな調子でそう言った。
なにかテンション高いな。
仕事帰りの酔っぱらったキャバ嬢だなと直ぐわかった。
だって、宗右衛門町だもの。そういうところですよ。そこから駅の方面へと向かって歩いてきてたわけだし。
悪いね。
わたしも同業者だよ。しかもまだ仕事中。キャッチを終えて一旦店に戻るところ。
なんだったら、店に来る?
そんなことを言った。
「わかってるって。ホストの兄さんやんな。あはは! でもお店には行かへんよ」
女性はそう言いつつ、なおも強引にわたしは腕を引っぱられた。
けっこう腹ペコだったし、まぁいっかと引っぱられるままに、居酒屋に入った。
店内に入って一旦落ち着くと、女性はメモ帳とペンを取り出して、ケータイ番号と名前を書いて渡してきたので、わたしも番号と名前を教えた。
ごきげんなその女性とビールを軽く1杯引っかけながら、おでんを突いた。
大根、ジャガイモ、もち巾着、はんぺん、たまご、厚揚げ、ガンモ、大根……やべ、この店のおでんウマっ。いくらでも入りそう。
ビールとめちゃ合う!
しかし、お腹いっぱいにすると、この後、仕事に支障をきたす……お酒が入らなくなるので、なんとかセーブした。
てか、悪い気しないんだけど、わたし早く店に戻らんとまずい……。竜宮城かよ!
「奢るるよ〜♡」
いや、そういう問題じゃなくて……あ、じゃあ、わたしも奢ることにした。
その女性と食事したあと、わたしの店に連れてきた。
サボってたことをごまかせた!
しかし、90分飲み放題コースに、少しフードをプラスして、わたしは自腹を切ったということです……。
* 蛇足
古代から人が求めてやまない、惚れ薬、媚薬というものは悲しいかな存在しない。
あるサイトで売られてる媚薬をひと通り試したこともある。結果、なんの効果もなかった。
強いて云うなら、女性用バイアグラくらい?
でもたったひとつ、つくづく媚薬だなと思うものがあって、それはお酒なのでした。
その証拠に、酔っぱらってわたしに声をかけてきたキャバ嬢は、その後連絡してくることはなかった……。
浦島太郎の話も、たまたま酔っぱらった美女に声をかけられ、甘い一夜を過ごしたという体験を膨らませて書いたもの……だったりするのかもね。
わたしから連絡しても良かったんじゃね? と思わなくもないけど、そんな発想に至ることもないって、おかしいのかな。そのへんも一般男性と違うXジェンダーか、あるいは単なる草食系?
たまたま出会った女の子から、苦労して電話番号聞いたんだけども、それ失くしちゃってて、おれはドジだ。
という内容のシャンソンがかった曲があるけど、エスプリも入ってるとはいえ、男性とはそういうものだったりするのかな、と。
そもそもわたしは、下心が皆無だったりと女性からしたら、警戒するほどのもんでもなく、チョロいw と思われてただけじゃ。
LGBTQ+のクエスチョニングもあわせ、わたしはチョロQ……。
〈完〉
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