異世界に召喚されたと思ったらダンジョンの最深部でした

向井一将

一章 異世界召喚

第1話 召喚


これはダンジョンの最奥に召喚された俺がダンジョンを脱出し、再び元の場所に戻ってくるまでの物語である。

 一度脱出したのになんでまた戻ってきたんだって?

 ……いろいろ事情があったんだよ。

 ヒントは沢山あったんだ。もっと早く気づいていればこんな面倒くさいことにならなかったのに。

 話は俺が召喚されたところから始まる。


 2


「やったわ! 召喚成功よ!」


気づいたら俺は見知らぬ場所にいた。

目の前には魔法使いのような黒いローブを纏っている長い黒髪の美少女。


「さっすが私って天才ね!」


 うんうんと頷きながら自画自賛している。

 顔はいいんだが、ちょっとバカそうだ。


(どこだここ……)


 どうやら夜らしいが妙に明るい。右側には林と小さな山小屋。

左側を見た時。この明るさの原因が分かった。


(光る湖? どうなってるんだ?)


そこにあったのは小さな湖。

水はぼんやりと青く発光しており、ふわふわと光の粒子が舞い上がっている。

対岸には鬱蒼と茂る森。どうやらここは森の中のようだ。


「どうしてこうなったんだ……」


 状況確認はひとまず置いといてどうしてこうなったのか俺は先ほどまでの記憶を思い出してみることにした。

 〇

 俺の名前は鈴木恭也。いわゆる引きこもりって奴だ。

 高校に入学したが上手く馴染めず、不登校に。

 齢十六歳にして終着駅クズ人間の快速電車に乗り込んでしまった。

 唯一外に出るのは漫画雑誌が発売される月曜日のみ。家から出なさ過ぎて妹からは「幻のポ〇モンかよ」と揶揄されていた。


 最後の記憶はそんな月曜日。

 いつも通り昼過ぎに起き漫画雑誌を買ってウキウキで家に帰ってくる道中──

 目の前にスマホを弄りながら歩いてる女子高生が見えた。

 スマホに夢中なのか赤信号に気づかないで横断歩道を渡っていく女子高生。

 そしてその横に迫る大型トラック。


 俺の身体はとっさに動いていた。

 全力で走ってその女子高生を突き飛ば──


「おらああああああ! 吹き飛べえええ!」


 ──さないで蹴り飛ばした。


 スマホしか見てねえ前方不注意女に渾身のドロップキックをかまし、勢いそのままに俺もトラックの導線から抜け出す。ビュオンと頭の後ろをトラックが通り過ぎる。

 スマホ大好き視界ゼロ女はそのまま向かいの歩道に突っ込み、俺も態勢を崩しながら歩道に着地。

 直後、背後でキキーっとトラックがブレーキを踏む音がした。


 普通こういう時はドラマみたいに突き飛ばすもんだろって? んな訳ねえじゃん。

女だからって優しくつき飛ばしてたら確実に俺がトラックに轢かれてたぜ。

さてとここからはお約束の時間だ。

 服についた汚れを払い、顔面から着地したスマホガン見女にクールに声をかける。


「大丈夫ですか?」


(おいおいこんなのラブのコメが始まっちゃうぜ)


 内心期待しまくっている俺にスマホ大好き視界ゼロ女は……。


「なにするのよ! 普通こういう時って優しく突き飛ばすんじゃないの!?」


 ブチ切れてきた。


(なっ……なんて自己中心的な女なんだ! 命が助かっただけ良いと思えよ!)


 あまりの理不尽さに言い返してやろうかと思った時。背後からキキーっとブレーキ音。

 振り返りながら俺は叫んでいた。


「おいおいおいおい! マジかよ!」


 ブレーキ音の正体は大型トラック。

 さっき性悪スマホ女にぶつかりそうになり急ブレーキを踏んだトラックの『対向車線』にいたトラックだった。

 性悪スマホ女を避けようと、急ハンドルを切ったトラックを避けようと、急ハンドルを切ったトラックは、コントロールを失い俺の元へと突っ込んできて……。


「ピタゴラス〇ッチかよおおおおぉ!」

 〇

「始めまして鈴木恭也さん! そしてようこそ異世界へ! 私が貴方を召喚した魔法使いアーニャよ!」


「俺は……異世界に来ちまったのか」


 うすうす分かっていたがやはりここは異世界らしい。まあ普通こんなMPが回復しそうな湖なんて無いもんな。


「……」

(いやっほぃ! 異世界だ! 快速急行クズ人間行きの電車に乗り込んでしまった俺の引きこもり人生に現れた一発逆転の大チャンスだ! チートなスキルで魔王を倒して終点異世界ハーレム駅! 完全に勝ち組だぜ!)


 おっと、違う違う。喜ぶ前に聞くことがあるだろ? 俺。


「なあ、一つ聞きたいことがあるんだがいいか?」


「ええ、いいわよ? なぁに?」


 光る湖の真横で俺はアーニャと名のる美少女に静かに聞いた。


「前方不注意視界ゼロ性悪クソ女……じゃなかった。あの女子高生は無事だったのか?」


 唯一の心配は彼女だった。あんな自己中心的な女でも俺が命を賭けて助けた女だ。

 命だけは助かっていて欲しい。スマホはバキバキになってて欲しいけど。


「ええ無事よ」


「……良かった」


アーニャの言葉にほっと胸を撫でおろしたその時。彼女は淡々とこう言った。


「そもそもアレ生きてないし」


「へ?」


「あなた女子高生を助けようとしてトラックに轢かれたんでしょ?」


「え? まあ、そうだけど」


 するとアーニャはふんすと鼻息を荒くし、自慢するように叫んだ。


「実はね! それ自体が異世界から人間を召喚する儀式なのよ! あの女子高生もトラックも私の魔力で作った偽物! すごいでしょ!? 本物そっくりだったでしょ!? 下見てみなさい! それ描くの大変だったんだから!」


 足元を見てみると、そこには象形文字で書かれた魔法陣のようなもの。

 中央には女とそれを突き飛ばす男。そしてトラックのような文字が描かれてある。

 あっ、コレ最初の場面だ。

 アーニャの自慢はまだ続く。


「ふふふ! あなたには分からないでしょうけどこの魔法開発するの大変だったのよ!? 天才と呼ばれる私でも十年かかったわ! しかも貴方女子高生突き飛ばさなかったでしょ? 一度失敗しかけたのよ? でも流石私ね! 即座に修正してやったわ! えっへん!」


 胸を張るアーニャは「ほらここよ! ここ!」と魔法陣を指さす。

そこには後からトラックが描き足され、男にぶつかる様子が描かれている。

つまり俺は女子高生を救ったんじゃなくて……。


「俺はお前に殺されたのかよ!」


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