第9話 ゾンビの世界へようこそ!
さて、と。
寄り道をしている間に随分と真っ暗になったな。
遠藤の家に入る前まではまだ夕日が出てて薄明かるいくらいだったのに、今じゃすっかり日が沈んでしまっている。
まぁゾンビに夜も昼もあまり関係無いんだけどな。
人間はゾンビが夜が一番活発に活動すると勘違いしてるみたいだけど、厳密には違うんだよな。
昼間は人間も動きやすいからか知らないけど結構な音を立てて活動している。
車を走らせたり、複数人で集まって行動したり。
そんな人で昼間は溢れかえってるから街にはかなりの音が溢れている。
だから、いくらゾンビの聴覚が良くなったと言ってもどこで、どんな物音がしたのかまで判別するのは余程それが近くない限り難しい。
でも、夜は違う。
視界が暗くなり、ゾンビと出会ってしまう可能性が高いから人間は夜にはあまり行動しない。
家や建物の中など安全な場所やゾンビが来れそうにないような高所に籠ってその日を過ごす。
だから街からは音が殆ど消えて、ある程度の距離の物音ならゾンビは聞き取れるようになる。
ゾンビに意識がある以上、こんな世界で物音を立てるのは決まって人間だと理解している。
それ故に、夜は音が在る所にゾンビは向かう。
ゾンビになってしまった時に芽生えた人間を捕食するという本能に従って。
だから別に僕達ゾンビは夜だから活発になるとか、凶暴になるとかいうのは厳密には無い。
ただ単に、獲物がどこに居るのかが分かりやすいから集まっているだけ。
……それをまだ知らないから、確かめようとしないからあんな馬鹿な行動が出来るんだよね。
『おい!誰か!誰か居ないのか!お願いだ!居たら開けてくれ!……クソ!ここも留守か!』
『ど、どうするのよぉ……!早くしないとあいつら来ちゃうよぉ……?』
若い男女二人が民家の玄関の扉をドンドンと叩いて呼び掛けている。
必死に、力強く。
『だ、大丈夫だ!おい!誰も居ないんだな!それなら……』
そして男は家の中から反応が無いことから住人は中に居ないと判断し、窓ガラスを手に持っていた棒のような物で叩きつける。
相当力を込めて叩きつけたようで、ガラスは細かい破片を飛び散らしながらガシャーンと甲高い音を鳴らして割れる。
『ちょ!ちょっといいのぉ!?人の家だよ!?』
『んなもん今関係あるか!命が掛かってんだ!そんなこと気にしてられるかよ!』
男の判断は正しい。
今、この世界で法の意識に縛られて行動していたら生存の可能性は限り無く狭まってしまう。
でも……その行動を取るのは少し遅かったかな。
せめてもう二時間前に寝床を確保しておけばこんなことにならなくても済んだのに。
『そうだけど!……え、あ、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!?後ろ!後ろ!』
『は?あ、ぐぁぁぁぁぁ!!!』
あれだけ騒音を立てればそりゃ近くを徘徊してる彼等は集まってくる。
夜を警戒するのは良かったけど、それじゃ遅いんだよなー
『い、いやぁぁぁぁぁ!!?やめて!来ないで!お願いだから!やめてやめてやめてやめてぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
二人の男女は迫り来る彼等に為す術無く喰い殺されてしまった。
『ウガー? (ん?俺死んだのか?俺ゾンビになったのか?なんか思ったよりは悪くねぇな。よし。人間食べに行くか)』
『ウーガー! (なんで私がゾンビになんで私がゾンビに!私をこんなにした人間が憎い憎い憎い憎い憎い!)』
男はわりと普通なゾンビに。
女は理性を失ったゾンビに。
そう言えばゾンビになるときに失うものの法則性ってあるのかな?
……まぁ別にどうでもいいか。
とりあえず、ゾンビの世界にようこそ!
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