ゾンニート

@Ryujisi

第1話 本業はゾンビで副業はニート

『ズガガガガガガガガ!!!』

『パァンパァン!』

『ガガガ!ガガガガガガ!!!』



 僕に向かって放たれる無数の銃弾。

 ハンドガンだったりアサルトライフルだったりと、武器の種類は様々だ。



『ボシュ!……ズガァァァァン!!!』



 時にはロケットランチャーも放たれる。

 たった一人の敵の為に市街地のど真ん中でここまでドンパチやってもいいのかと思うが、それは考えたら負けなのだろう。

 僕は別段焦るわけでもなく、近くの建物の陰に隠れて敵の攻撃をやり過ごす。


 そうした事で敵から僕の姿が見えなくなったせいか、通信兵の一人が本部に連絡する。



『HQ!HQ!こちらF(フォックストロット)!ターゲットロスト!これより周囲を警戒しつつ捜索する!』

『こちらHQ、了解。奇襲を受けないよう万全の警戒をされたし』



 僕が建物の陰に隠れた所は絶対に見ている筈なんだからいちいち本部に連絡をするまでも無いと思うんだけど、これも考えたら負けなのだろう。

 僕は敵の望み通り、建物をグルッと回って敵の後ろに回り込み、ありったけの銃弾を喰らわせてやる。



『あぁぁぁぁぁぁ!!!』

『ぐあっ』

『のぁぁぁあ!!!』



 十数人近く居た敵はみるみるうちに死んでいき、残り最後の一人となった所で……



『パァン!』



『チャーラーラーラーラ~~ GAME OVER 』



 ビルの上階に待機していたスナイパーに頭を撃ち抜かれて僕は死んでしまった。



「ウガ……」



 クソ。

 まただ。

 このゲーム、地味に難易度高く無いか?

 いつも同じ所で殺される。



 僕は今近所のゲームセンターに遊びに来ている。

 今日は一応平日で、僕も一応学生ではあるのだが、それは最早関係ない。

 暇だから遊びに来る。

 それ以外に何の理由が必要なのだろうか。

 僕の最近の流行りは今やっていたアーケードゲームなのだが、思わず筐体(きょうたい)を壊したくなるぐらいにこのゲームはよく死ぬ。


 前回はヘリの支援で蜂の巣にされて、前々回は四方八方からのロケットランチャーで爆散。

 前前々回は倒壊したビルに潰されてペシャンコにされた。

 ここまで理不尽な殺され方を続けられると流石にやる気が起きなくなる。



「ゴァァァァ」



 僕は目の前のアーケードゲームに悪態をつくと、外の空気を吸うためにゲームセンターを出た。



「アァァァァ!」



 太陽がキラキラと照ってとても眩しい。

 薄暗いゲームセンターの中に小一時間程いたのだから尚更だ。

 僕はフラフラと歩きながら次の暇潰しの場所へと向かう。


 ……うん。

 こうして改めて街並みを眺めながら歩いているとつくづく思う。

 ゲームも現実も大した差は無いなって。


 半壊した住宅。

 荒らされたコンビニ。

 未だに燃え続ける建物。

 乗り捨てられた車。

 所々にある生存報告の掲示板。

 高台から見下ろすと立ち上っている数多くの黒煙。


 そして何よりも現実とゲームの差を埋めているのは……



「ゴァ!(よう!久しぶり!)」

「アァァァ?(誰だっけ?あ!……誰だっけ?」

「オァァァ!(ま、そんなもんだよな。じゃあな!)」

「オォォォ(悪いな。じゃあな)」



 街を徘徊する無数の動く死人。

 いわゆる《ゾンビ》だ。

 今出会ったゾンビは同じ学校に通っていた昔ながらの友達。

 死んでから記憶能力が欠如したみたいで、僕と顔を合わせても僕が誰か分かっていない。

 何か話しかけても今一つ要領を得ない返答が多いから今では最低限の意思疏通が可能なくらい。

 大概のゾンビがそんなだからしょうがないと言えばしょうがないんだが少し寂しい気持ちがあるような気もする。


 ……あ、そうだ。

 さっきの友達を見て、僕も記憶能力に問題が出ていたらあれだから簡単に自己紹介をして確認しておこう。

 僕の名前は藤堂鈴(とうどうれい)。

 職業・ゾンビ

 副業・ニート

 特技・徘徊


 以上。

 よし。ちゃんと覚えているぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る