#5 《残基膨大》
ある日、公爵家の息子が病死した。
その家の地位故に、様々な人物──国の著名人達が葬式に参列した。
……その時からである。彼の性格が豹変したのは。
「はぁ〜い! 皆元気してるぅ〜?」
ぎぃ、と
現れたのは魔術師らしからぬ筋骨隆々の男。
旧ジェイトス国城、煌族直属魔術師団、金級魔術師アース・ガロインである。
しかし、見た目に削ぐわず、その口調はわざとらしい女性らしさで塗り固められていた。
突然の豹変。
ある日急に、彼の言動が一変してしまった。
当然偽物の可能性なども考えられたが──質問者とアース本人にしか分からないような、幾つもの質問に答えられたことで、その可能性は否定された。
悪魔憑きなのではとも噂されたが、神聖魔術を扱えたことにより、その可能性までも否定された。
初めは、部下も大層眼を
それは一重に、一年と言う長い月日が、物を言わせた結果であった。
彼はおもむろに、机に齧り付く部下の背後に立つと、肩をぽんぽんと叩く。
「所で、例のアレ。進んでるかしらぁん?」
「はい、滞り無く。この調子で行けば、後2ヶ月も掛からないでしょう」
「そ〜お? なら良かったわ」
意味有りげにそう言うと、アースは人差し指を唇に当てながら、微笑んだ。
──ここまでは、総て描いた絵の通りである。
彼は心の奥底で、ほくそ笑んだ。
(さて。
こつりこつりと小気味良い音が、暗く長い廊下に響いている。
隆起した筋肉には似合わない
やがてアースは、廊下の突き当たりへと辿り着く。
金属製の大きな扉。
錆が付いていると言った風では無いが、その
アースは懐から杖を取り出すと、その杖先を扉に向ける。
「──〝
彼がそう呟くと、杖先は閃き、扉はごごごと地響きが如き音を上げ、開かれた。
足を踏み入れて数歩。そこには何重もの結界魔術が張り巡らせられている。
更にその奥では、鉄で出来た蛇の群れが蠢く。
──否。それは鉄製の蛇などでは無い。
幾本の鎖が、ある一人の人物を絡め縛っていた。
「気分はどうかしら? この部屋は、かつてここが王城として機能していた頃に、高レベル帯の罪人を拘束しておく為の場所だったらしいのだけれど」
鎖の渦中に居る人物は、常に、全身から
流れた紅は、石畳の間を縫って通り、取り付けられた小さな排水溝へと流れ込んだ。
原因は、その鎖に有る。
鎖には無数の棘が生えていた。
それらが人物の肌を破り、肉を抉り、骨を削っているのだ。
「ゔあぁ、あぁっ、ぁぁぁ、ぁぁあッ!!」
絶叫。
アースの声を聴くや否や、拘束された彼は、獣の如く叫ぶ。
激しく憎悪の篭った声で、蜂の巣の喉で吠える。吼える。
喉を枯らし、生血を枯らし。
喉を焦がし、憎悪を焦がし。
彼は暴れ叫び続ける。
アースはそれを、鼻で嗤った。
「ふっ、堕ちた物ねぇ〜……。これが元々神だったなんて、言って、誰が信じるでしょうねぇ。ふふふっ」
常人では死亡しているはずであるが、拘束された彼は死なない。決して死ぬことは無い。
絶えず傷付き、絶えず再生する。
それが彼の
「──【
──【
それが彼のチート能力!
それは、如何なる外傷をも無に帰す、不死身の肉体を授ける能力!!
十六歳にまで成長すると、それ以上歳を取ることが無くなる。
……しかし、裏を返せば、それしか出来ないとも言えた。
一見して無敵ではあるが──行動を封じられれば、為す術無く、拘束状態に甘んじることとなる。
アースは、彼の床を流れる、大量の血液を睨め付ける。
「貴方のチート能力、不思議よねぇ。解析すれば、不死身の肉体をある程度再現可能って言うんだから」
不死性の再現。
不死身の量産。
人智を超えた人為的
神以外の
神界では、
しかし、アースにそれを遵守するつもりは更々無いッ!!
何故なら──彼は神界の面汚し。
「貴方の〝
身体はくねらせ、顔は紅潮させ、口からは涎を流すアース。
彼の狂気的な笑い声が、石造りの独房で反響していた。
何もかもが
──
驚異的な歩兵数と、驚異的な生命力。
人類史上、最も不滅の軍隊が今、完成しようとしていた。
口角は大きく吊り上がり、涙は薄らと浮かぶ。
笑って、嗤って、哂って、呵って、咲って、爆笑する。大笑いする。
「最後に笑うのは、アタシよぉ〜〜んッ!!!!」
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