恋人

 夏休みに入った俺は今優那ちゃんの配信を見ている。

 優那ちゃんの正体が露那だと分かった今でも変わらず、俺は優那ちゃんの配信を基本的には見ている。

 それは露那として見ているのではなく、あくまでも優那ちゃんとして見ている…だが。


「でね!次は彼氏の話なんだけど!」


 俺はこの話に入ると十秒も持たずして配信を閉じてしまう。

 何故なら…


「とにっかくかっこよくて優しくて一緒に居ると楽しんだよね!例えばこの前一緒に外にデートに行った時なんかは綺麗な展示物があったんだけどそれを子供みたいに……」


 この辺りでいつも配信を閉じる。

 良く思ってくれるのは嬉しいがこんなにもベタ褒めされると配信を見続けようにも相当な精神力がいる。


「…ぁぁ」


 ともあれ、色々と落ち着いた。

 露那とは復縁し、秋ノ瀬は…フってしまったが、友達として続けていけそうだ。

 何か将来設計のようなものも立ててるみたいでそのための勉強もしてたし、秋ノ瀬は心配いらないだろう。

 姉さんの件は…正直今でもかなり驚いているが、あれから特に変わったことはないし、今まで通りの姉さんといった様子だ。


「…え?」


 俺のスマホから着信音、というだけならまだそれまで驚きはしないがその着信音の相手は…


『露那』


「……」


 どういうことだ…?

 今露那は優那ちゃんとして絶賛生配信をしているはず、それなのに露那から電話がかかってくるなんてことがあるわけがない。

 とはいえ出ないわけにもいかないため俺は電話に出る。


「…はい」


「あ、奏くん?」


 電話越しに露那の声が聞こえてくる。


「露那…?配信中じゃなかったのか?」


「奏くんが見てない気がしたから急用って嘘付いて配信終わっちゃったっ」


 そんなことが許されるのか…ていうか見てない気がしたってなんだ、確かに途中で見るのをやめてしまったのは間違ってないが。


「そ、そうか…」


「それより、もう夏休みに入ったし、海とか行かない?」


「海…?」


「うん、夏と言えばじゃない?」


 確かに夏と言えば海だし、もうここ何年も行ってないな。


「そうだな、行こう」


「やったー!私奏くんと海行くの夢だったんだよね!」


「夢って…そんな大袈裟な」


「大袈裟じゃないよ?私奏くんとしたい夢なんていっぱいあるんだからっ!山とか無人島とかねっ!」


 山は分かるが無人島に関しては意味がわからない。


「無人島…?」


「うん、一緒に遭難して二人で裸で生活とかしたくない?お互い何も隠し事もないし、周りには誰も居ないから何をしても何も言われない環境…あっ、ダメダメ!これ以上は私の女の子なところが捗っちゃうから!」


 無人島に何かロマンを見出しているようだが…まぁいいか、それは否定することでもない。


「そうだな、無人島はともかく色々なところには行きたいな」


「うんっ!あとはあとは……」


 その後、露那は俺に将来したいことををたくさん提案してくれた。

 それを語る露那の声はとても楽しそうで、それを聞いていると俺もその未来を想像して楽しくなってきて。

 …夜中まで話し込んでしまった。


「もうこんな時間なんだね…でも今は夏休みだから何も気にしなくていいね〜」


「そう…だな…」


「…奏くんもしかして眠い?」


「いや…別に…」


 俺は目を擦りながらそう返答するが、もう眠気が極限まで来ていた。


「いつか奏くんが眠そうにしてる時間帯に奏くんの隣でその顔を見て、その頭撫でてあげたいなぁ」


「……」


「…奏くん?」


「…ぅ…」


「将来は同棲して、あんなことやこんなこともして…結婚しようね」


「…ぁ…」


「…大好きだよ、奏くん」


 それから約八時間後。


「…ん…?」


 俺は目を開き、自分が通話しながら眠ってしまったことに気がつく。


「しまった…今何時だ!?」


 時計を見ると朝の九時だった。


「夏休みだからって早速浮かれすぎた…」


 俺は少し反省をしてから、自分のスマホの画面を見た。


「…あ」


 その画面には露那とのトーク画面が表示されており、通話はもう数時間前には切れていたみたいだった…が。


『通話中に寝ちゃうなんてやっぱり奏くんはかわいいね』


 という穴があったら入りたいと思わせてくるようなメッセージが送られてきていた。


「あぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は本気で何故寝てしまったんだということを本気で後悔していた、寝るならせめて通話は切ってからだろ…!


「どうしたのですか?奏方、大きな叫び声のようなものが聞こえましたが」


「あ、姉さん…いやなんでも…」


「奏方!私のことをあくまでも姉だと言うのであれば、姉としての役割を全うさせてください!」


 そう言いながら姉さんは俺に抱きついてきた。


「姉さん…!?それは姉としての役割外じゃないか…?」


「いえ、これも姉としてのスキンシップの一つです」


 姉としては行き過ぎだが…これを否定すると姉さんの国語力を持ってして色々と追随を許しかねない、ここは逆らわないようにしておこう。


「でも、本当に俺が叫んでた理由はそんな大したことじゃないんだ」


「そうですかぁ…本当ですかぁ?」


 姉さんの声が完全にとろけたものになっている。


「…姉さん、もしかしてただ俺に抱きつきたいだけとかじゃないよな?」


「まさかぁ…です…」


 姉さんのこんな姿を俺が通っている高校の人たちが見たらきっと相当驚くだろう、完璧な姉さんがこんなにも緩んでいるところを見たら。


「かなたぁ…」


「ね、姉さん…!」


 俺はその後も少しの間姉さんの抱き枕として抱きつかれ続けた。

 だがなんだかんだで色々と全てが落ち着いた…と思っていた矢先に、ある人物から俺に対して驚くべき告白がされた。

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