愛生さんの来訪
夏休みに入って約一週間、今のところ去年露那と付き合っていた時のように凄惨なことはまだ何一つとして起きていない、頼むから今後も一生このまま何事もなく穏便に生活したい。
心の中で過去に怯えながその過去とはもうお別れだと心の中で決めていた矢先に、インターホンが鳴った。
「俺が出ないとな」
今姉さんは七月の内に夏休みの課題を全て終わらせることを目標にしながら家事を全てこなすという高校三年生にとってはハードワークすぎることをしていて自分の部屋にこもっている。
何か手伝えることがあれば良いんだが、手伝おうとすると逆に「姉に任せてください」と怒られてしまうという始末…だからせめてインターホンぐらいは俺が出ないとな。
そう思いながら玄関に出てドアノブを握った。
それにしても誰だろうか…今日は露那とは会う約束はしていないし、秋ノ瀬だってフラれた直後にいきなり家に来るとは考えにくい。
「うわっ!?」
そんなことを考えながら俺が鍵を外した瞬間に勢いよくドアが開かれ、俺は思わずドアにかけていた力のせいで体勢を崩してしまった。
「大丈夫ー?」
俺は来訪者が手を握ってくれたためどうにか怪我を追わずに済んだ…危なかった、普通に今のは頭を角にぶつけていた可能性がある。
「ありがとうございま…え?」
俺はお礼を言おうとしたところで、その顔を見て驚いた。
「あ、愛生さん…!?」
「そうだよー?」
どうして愛生さんがここに…!?
家の住所…はなんか俺とネットゲームをしているときに俺が何も意識していない間に色々と情報を俺から聞き出し、それを整理して割り当てたとか言ってたか。
…でもそれにしたって。
「な、何の用事ですか?俺にじゃなくて姉さんに用事なら姉さんのことを呼んできますけど」
頼むから俺ではなく姉さんへの用事であってくれ…!
「ううん、美月じゃなくてかなたに用事だったから大丈夫〜」
俺にだった…もうここからは良い予感はしない。
ネットの人、という枠組みでチャットをしながらゲームをしている分には楽しかったがこうしてリアルであって見ると愛生さんはマイペースすぎてこっちの調子が崩される。
「俺に用事って…?」
とはいえまずはその用事というものを聞かないと話が進まないため、俺はその用事の内容を聞いて見ることにした。
「なんか小耳に挟んだんだけどー」
「はい」
「黒園ちゃんと付き合い始めたってほんとー?」
「…まぁ、はい、付き合い始めたっていうか、正確には前に付き合ってたことがあるので復縁したっていう表現の方が正しいかもしれませんけど」
これに関しては絶対に隠し通せることではないため、最初から包み隠さず言っておくのが吉だと俺は判断した。
「なんで復縁したのー?」
「なんで、って言われても…」
それを改めて言語化して他者に話せと言われると難しいものを感じてしまう…どう答えればいいか迷いどころだ。
「可愛いから付き合っちゃおーってなったの?」
「そんな理由じゃないですよ!」
「別に悪いことじゃないと思うから隠さなくたっていいよー?」
「その理由が悪いかどうかはさておいて少なくとも俺はそんな理由じゃないですから!」
やはり愛生さんとの会話は難しいな…こっちがどう返答しても絶対に自分のペースを崩してこないから対応に困ってしまう。
「じゃあやっぱりあの子がかなたが推してる明城ちゃんだって気づいたから?」
「…え」
その瞬間俺の思考は著しく鈍った。
…どうして愛生さんがそのことを知ってるんだ?
まさか露那本人がそんなことをおそらくは親しくもない愛生さんに話すとは思えないし…でもかと言って愛生さんは事実知っている、もちろん俺が話したわけでもない。
「やっぱりそうなんだー」
「ち、違いますよ!な、なんのことですか?」
プライバシー的にここは知らないふりをしておくのが露那のためだろう。
「隠しても意味ないよー」
「し、知らないですって」
「私も同業者だから、本当意味ないんだよー」
「同業者って、え?」
本当に愛生さんと話していると頭に疑問符しか浮かんでこない、同業者って、本当に何を言っているんだこの人は。
もしかすると優那ちゃんの正体が露那だということを知っているのは本当なのかもしれないが、その優那ちゃんというのが何をしているのかは知らないのかもしれない。
「その明城優那ちゃんがやってる仕事はそんな誰にでもできるようなことじゃないですよ、だから同業者だなんて言われても…」
「Vtuberだよねー?」
「…え?」
知っている…?
ならさっきの同業者発言というのもそれを知った上での発言ということになるのか、だとしたら。
「もしかして…愛生さんもそういった活動をしてたり?」
「うんー」
「そんなことを軽々しく…!?」
「ダメなのー?」
「ダメですよ!」
この人にはプライバシーの概念が無いんだろうか。
「えー、じゃあ私が明城ちゃんと一度だけコラボしたことのあるVtuberの永生一愛だってことも言ったらダメなんだー、どうしよー」
「え!?」
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