修羅場ショッピングモール

「奏くん!」


「天海!」


 秋ノ瀬が告白してきてからと言うもの秋ノ瀬だけではなく露那も俺に対してより積極的になってきた。


「…黒園さんは前に天海と別れたんじゃなかった?」


「奏くんが勝手に別れを告げてきただけ」


「でも天海が黒園さんと別れたいって思った要因があったってことだよね?だったら、次は私に譲ってくれないかな?」


「過去の失敗を振り返って次に繋げる、そうやって人類は進んできたんだから、変えることのできない過去なんかよりも未来に目を向けようとするのは当然、だから奏くんを譲る気はないよ」


 こんなドロドロな雰囲気でなければかっこいい言葉だったが、あいにくと男の俺でもわかるほどの女子同士のドロドロというものを今俺は肌で感じてしまっている。


「…じゃあ3人で一緒にショッピングモールでも行かない?」


 こんな修羅場のような状況で秋ノ瀬から不意をつく言葉が出た。


「なんで3人で……」


「あぁ、そうだな、それが一番平和だ」


「…そう、だね」


 明らかに露那は何か意を唱えようとしていたが、これ以上は手が出かねるほどの喧嘩になるかもしれないと思った俺は場を納めるために秋ノ瀬の意見に同意し、俺たちは3人でショッピングモールに向かい、何故か一緒に服を見ていた。


「あ、この服絶対奏くんに合うよ!」


 露那は黒く通気性の良さそうな長袖を持ってきた。

 この暑い時期に長袖はどうかと思うが、見た目だけでもわかるほど通気性は良さそうだ、それでいて黒の中にもグラデーションがあって着心地とオシャレを両立しているようだ。


「天海絶対この服似合うって!」


 ほぼ同刻、秋ノ瀬が白く通気性の良さそうな長袖を持ってきた。

 露那の持ってきた服とは本当に対照的で、どうやらブランドは全く同じの色違いのもののようだ。

 よく見てみるとこれは着ると上半身のラインが少し見えそうだ。


「は?」


「え?」


 2人は互いに互いのことを認識したのか、俺に言った発言に対し異議を唱え始めた。


「何言ってるの、奏くんはこういう黒いかっこいいのが似合うんだって」


「黒園さんこそどうしたの?天海にはこういう白いのが似合うに決まってるじゃん」


 白黒…本当に真逆だ。

 同じ俺という人をモデルにしても、ここまで意見が分かれるものなんだな。


「黒だって!」


「絶対白!」


「…そこまで言うなら実際に奏くんに着てもらおうよ」


「そうだね」


 2人は俺のことを半強制的に試着室に連行した。


「奏くん!まずは黒、次は白の順番でそれぞれ着替え終わったら出てきて、わかった?」


「あぁ、わかった…けど、試着室の前に2人居るのはなんだか圧が……」


「「それが?」」


「なんでもないです…」


 普段はあまり語気が強くならない秋ノ瀬も珍しく語気が強くなっていた。

 秋ノ瀬自体がオシャレな女子高生、おそらくオシャレに関しては多少のプライドというものも存在するのだろう。

 俺は言われた通りまずは黒の服から試着してみた。


「…ん〜?」


 試しに自分1人で試着室の中の鏡と向き合ってみる。

 …自分だからなのか、似合っているとも似合っていないとも思うことができないな。

 似合っているというのは自信過剰だし、かといって似合っていないというのはそれはそれで自分のことが少し可哀想になってしまうため思いたくない。


「…がっかりさせる結果になるかもな」


 そんなことを思いながら俺は試着室のカーテンを開けた。


「着てみ……」


「かっこいい〜!」


「…え?」


 俺は悲観していたが、露那の反応は俺の悲観とは真逆だった。

 白が似合うと言っていたはずの秋ノ瀬も少し目を輝かせている。


「ほら!言ったでしょ!絶対奏くんは黒色似合うって!」


「そ、そうか?」


「自覚無いの?罪だなぁ〜、このトキメキを奏くん本人にも教えてあげたいよ〜!…本当は私以外の女が奏くんのこんなかっこいい姿を見るなんて癪だけど奏くんやっぱり黒似合ってるよ!…ねっ、秋ノ瀬?」


「うっ…」


 途中何故か小声になった露那だが、どうやら秋ノ瀬に何かを言っていたようだ。

 秋ノ瀬が痛いところを突かれたというような表情をしている。


「……」


「奏くん!秋ノ瀬が奏くん似合ってな……」


「そうは言ってないじゃん!似合ってる!似合ってるけど、私が言いたいのは白の方が似合うよねって話!」


「はぁあ、この奏くんを見てまだそんなことが言えるなんて…確かに奏くんが着たらどの服でもかっこよくなることは認めてあげるけど黒よりもっていうのは失言なんじゃない?色違いの服で」


「絶対白の方が似合うって!天海!次は白の方も着てみて!」


「わかった」


 俺は二度ふたたび言われるがままに白の服も着てみることにした。

 鏡で自分の姿を見てみるも、黒の服の時とあまり心象は変わらない。

 その状態でカーテンを開ける。


「っ!か、かっこいいよ!天海!」


 やはり一度付き合っていたことのある露那よりは照れているようだが、それでも純粋に褒めてくれるのは嬉しいものだ。


「……」


「黒園さんもそう思うよね?」


「…まぁ、奏くんが来たら似合うのは当然だし?」


「そんなのじゃなくて、白が純粋に天海にもっと似合ってるんだって!」


「は?黒の方が似合ってるし」


「白」


「黒」


「白!」


「黒!」


 その後2人は長々とそれぞれの良さについて語り合っていた。

 …この2人、実は仲良くなれるんじゃ無いだろうか。

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