正体疑惑

 最近、少し気になることが出てきた。

 それは、優那ちゃんの話す内容があまりにも俺と酷似しすぎていることだ。

 もちろんそれが不快だとかっていう話ではない、推しと似たような話題を持っているというのはファン冥利に尽きるというものだ。

 だが…


「いくらなんでも一致しすぎている…」


 最近恋人と喧嘩をしていたが少しずつよりを良くして行っているだとか、メールのタイミングだって、配信の遅延を考えるのであれば寸分違わず同じと考えることも可能なほどだ。

 そしてそこから導き出された俺の中の疑惑。


「もしかして露那が優那ちゃんなんじゃないかという疑惑…な、なんてな、そんなわけ、ない…よな」


 そうわかってはいるが、万が一にも、億が一にもあり得ないだろうということはわかっているが、それでもその可能性を完全に否定することはできない。

 そのため、俺は今日とあることを決意した。


「それにしても、奏くんの方から私のお家に来たいなんて言ってくれるとは思わなかったよ〜」


 俺は放課後、露那との帰り道、露那の家に行きたいと言ってみた。

 あくまでも性別は違う人にいきなりそんなことを言うのは礼儀知らずなのかもしれないが、今日は調するために向かうため、神様にも目を瞑ってもらいたい。

 乾坤一擲けんこんいってき、運命の大勝負ということだ。


「あぁ、俺たちもだいぶ仲がまた深まって来たからな」


 これは実際に思っていること、嘘ではない。


「嬉しい、存分に私のお家で遊ぼうね!あ、でもちょっとだけ注意事項とか言ってもいいかな?」


「注意事項…?」


 過去にも露那の家には行ったことがない、何か家限定のルールがあるのだろうか。

 そういうことなら合わせるほかない、郷に入ってはというやつだ。


「お家の中だと私もリラックスして自制心が薄くなっちゃうから、あんまり際どい態度とかしないで欲しいの」


「際どい…態度?」


 そんな日本語を初めて聞いた、どういう意味だ。


「うん、例えば足組んだりとか、ちょっと暑いからって服パタパタしたりとか、そういう際どい行為だね」


「よくわからないが…わかった」


 俺は矛盾したことを発していると自覚はあるが、それ以上に露那の言っていることが俺には意味がわからなかった。


「奏くんは無自覚だから注意しろっていう方が難しかったね、ごめん、私がどうにかして自制することにするよ」


 本当に露那が何を言っているのか意味がわからない。

 露那は理解できないことを言うことはあるが、意味までわからないことを言うのは珍しい。


「じゃあ、入って」


 俺は初めて露那の部屋に足を踏み入れた。

 …女子の部屋といえばぬいぐるみや花が置いてあるというイメージだが、露那の部屋にはぬいぐるみも花も置いていない。

 代わりにピンクのカーペットで女の子らしさがあり、俺と撮った写真が写真立てに飾られている。


「奏くん…!そんなにジロジロ私の部屋見るなら私のこと見て…!」


「え、あぁ、悪い」


 確かに自分の部屋をこんなまじまじと見られて良い気分になることはない…だろうが、俺の今日の目的の半分以上はそこにある。

 もし露那が優那ちゃんならある程度高そうなデスクトップパソコンやゲーミングチェアなどの配信者セットが部屋に揃っているはず…と思っていたが。


「無いな…」


 やっぱり俺の思い違いだったのか、普通に考えてそんなことあり得ないよな。


「無いって何が〜?」


 思わず溢れていた言葉に露那が反応した。


「いや、なんでもない」


「え!なに〜!言ってよ〜!言ってくれないと私朝も夜も眠れないよ〜!」


「わ、わかった…ゲーム機とかゲーム用のパソコンとかは無いんだなと思って」


「あ〜!奏くんゲームしたいの?だったら別の部屋にそれ専用の部屋があるよ!」


「そうなのか…」


 自分の部屋とゲーム部屋を分けているのか…珍しい、よな。


「一緒にゲームしに行く?」


「いや、大丈夫だ」


 もう十分目的は果たせた。

 確定はしていないが露那が優那ちゃんである可能性はやはりあるようだ。

 おそらくそのゲーム部屋に行けばさらに露那の正体を確定させることができるだろう…が、俺は無意識の内にそれを恐れてしまっていた。


「そっか〜…じゃあトランプしよ!」


「わかった」


 露那はどこか思うところがあるようだったが、気にせずトランプを提案してくれ、俺と露那は長い間トランプを楽しんだ。

 種目はババ抜き、何故か毎回2分の1になった時には露那に見抜かれてしまう、何かイカサマでもしているのかと疑ってしまうレベルだ。


「また私の勝ち〜!奏くんは弱いな〜」


「くっ…」


 これに関しては純粋に悔しい。

 もう何巡か繰り返したのち、露那が一度落ち着いた口調になった。


「…ねぇ奏くん、今日私の家に来たいって言ってくれたのって、もしかして遊ぶ以外の目的があったんじゃない?」


 見抜かれてる…!?


「……」


「奏くんが何を知りたいのかわからないけど、もし知りたいなら私に直接聞いてくれれば、教えてあげるからね」


「…あぁ」


 その露那の言葉は、俺の中で何かを確信させるような言葉になった。

 …露那と俺の関係性がある位置に定着するのも、そんなに遠くは無いのかもしれない。

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