イベント後

「露那〜!」


 これは喜怒哀楽で言うところの怒の感情での叫びである。

 生徒会長室に行っても姉さんはおろか誰も居なかった。

 俺は露那に文句を言うべく体育館に戻ってきた。


「何が悲しくて階段往復ダッシュなんてしないといけないんだ…」


 そう言うのは運動部の人たちに任せてく…あれ?


「あ、天海〜!」


「秋ノ瀬…?あれ、露那は?」


「黒園さんなら先に帰ったみたいだよ」


「そ、そうか」


 文句の一つでも言いたかったが帰ったのなら仕方がない。

 …さっきの続き、一度中断されてしまっては次にいつ言うかのタイミングが難しいな。


「じゃ、行こっか!」


「あぁ」


 それよりも今はこのクラスの中心人物である秋ノ瀬と出かけるという最難関ミッションがある、今はそれに集中しよう。

 道中。


「……」


「……」


 沈黙が辛い。

 きっと秋ノ瀬は微塵も気にしていないだろうが、俺が気になるため適当に話を始めることにした。


「さっきのイベント本当に良かったな〜」


「…そうだね〜」


「特に優…天城さんの歌とか盛り上げ方がめちゃくちゃ上手くて驚いた」


「…うん」


 …あれ。

 いつもなら嘘でもオーバーリアクションをしてくれそうな秋ノ瀬が今はあまり元気がないようだ。

 話が下手すぎたんだろうか…確かにさっきも似たようなことを言ってたから「またその話〜?」と思われていてもおかしくはない。

 …もう早速ダメな気がしてきた。


「天海はあの天城さんって人好きって言ってたよね」


「あぁ、好きだ」


「それって恋愛感情で…?」


「は、はぁ!?そんなわけないだろ!」


 どう頑張ったら俺が優那ちゃんに恋愛感情を抱いて、あわよくば付き合えるかも…!なんて最高の世界線に行けるんだ、是非今の技術でナビゲーションして欲しいところだ。


「そうなんだ〜、でもVtuberってあの可愛い顔と実際の顔は違うんだよね?だったら中の人どんな人かとかわかんなくない〜?」


「別にVtuberに中の人がどうとかまでは求めてないんだ」


 あくまでも俺は優那ちゃんというコンテンツを楽しんでいる。

 それに中身まで追及してはいけない、それがVtuberファンの礼儀というものだろう。


「へ〜そっか〜」


 秋ノ瀬も道中の時間潰しに話題を繋げていたのか、本当に興味があったというわけではなさそうな口ぶりだ。


「あ!着いたよ!」


 気がつくと、目の前にはリニューアルの文字とともにお化け屋敷、と書かれている。

 …そうだった、普通に出かけるだけじゃなくてお化け屋敷に来たんだった、今更ながらなんでチョイスがお化け屋敷なんだ、新しいものに興味があるとは言えお化け屋敷なんてホラーの塊を選ぶとは…


「秋ノ瀬ってホラー得意なのか?」


「ん〜、全然!」


 じゃあ本当になんでお化け屋敷に来たんだ、なんて野暮な事は言わない。

 友達付き合いというものもたまには良いだろう、俺と秋ノ瀬はもうすでに出来ていた列に並んだ。


「……」


 列に並んで順番が来るのを待っていると、中から次々に悲鳴が聞こえてくる。

 少しだけ怖くなってきた、因みに俺自身ホラーは得意ではない。


「天海めっちゃ怖そうな顔してて笑っちゃう〜、そんなにホラー得意じゃなかったなら私からの誘いなんて断れば良かったのに〜」


 希少な友達、そんな友達からの誘いを断れるわけがない。


「友達からの誘いを用事があるわけでもないのに断るわけないだろ?」


「友達…そうだね〜」


 秋ノ瀬は少し言葉を詰まらせた。

 …どうも秋ノ瀬の様子がおかしい。


「体調、大丈夫か?」


「え、なんで?」


「少ししんどそうに見えた」


「そうかな〜?全然そんなことないから大丈夫だよ!」


「そうか」


「うん!」


 なら問題無いか。

 時間の流れに身を任せていると、とうとう俺たちがこおお化け屋敷に入る順番が来た。

 ここに来るまでの間に計十組の悲鳴を聞いてきたため、元々お化け屋敷に対する好奇心など無かったのが、今ではマイナスな感情になっている。

 だがここまで来たら行かない訳にはいかない。


「い、こっか、天海」


「あ、あぁ」


 秋ノ瀬も多少緊張しているらしい。

 最初は俺と秋ノ瀬が一緒に出かけるなんて大丈夫かと思っていたが、今はそれどころではなくなってしまった。

 中に入ると今日のイベント時の体育館よりも暗かったが、そこはかとなく小さいなあかりが間を空けて続いている。

 その方向に進めということだろう。


「お、落ち着いていけば大丈夫だよねっ」


「そう、だな」


 俺と秋ノ瀬はゆっくりと歩く。

 今のところ特に何も起きていな……


「きゃあぁぁぁっ!」


「ど、どうした!?」


 秋ノ瀬が突然叫び始めた。


「今首筋がヌルってした!気持ち悪っ!無理無理〜!!」


「ヌルってなんだ…?俺はなんともないが」


「わかんないよ〜、うぅ気持ち悪い〜」


 秋ノ瀬はこれでもかというほど気持ち悪がっている。


「仕掛けだからそんな変なものじゃないと思うから大丈……ぁ!?」


「ど、どうしたの…?」


「…俺もヌルッとした」


「でしょ!?気持ち悪いよね!」


 そんなに喜んで共感するようなことかどうかは疑問だが確かに気持ち悪いと思うぐらいにはヌルッとしている。


「何かな〜これ…」


「定番だとこんにゃくとかじゃないか?」


「えぇ、嫌だな〜」


 俺だって嫌だがまぁお化け屋敷に来るならそのぐらいは覚悟しておかないといけないか…


「え、なんかすべっ……」


「っ…」


 秋ノ瀬は何かに滑ってしまったらしく、俺と共にその場に倒れた。


「あ、ごめん秋…!?」


「どうした?」


「……」


 …ぁ!?

 どうした?じゃないだろ俺!

 横転してしまったため、秋ノ瀬が俺に跨る体勢になっている。


「秋ノ瀬……」


「天海、ちょっと聞いて欲しいことがあるの」

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