露那と奏方姉の邂逅

「ん…奏方…」


「…ん?姉さ……!?」


 息が…できない!?

 何が起きてるんだ…!?目が覆われていて何も見えない。


「んっ…!姉さん…!起き…ぁっ」


 し、死ぬ…

 いや、姉さんを人殺しにしないためにも死ぬわけには…


「…奏、方?おはよう…ございます」


 姉さんは体を起き上がらせた。

 そのおかげにより、俺は呼吸困難な事態から脱することができた。


「はぁはぁ…」


「どうしたのですか?奏方」


「なんでも…ない」


 はぁ…何がとは言わないが大きくなりすぎるのも困りものだな。


「今は六時ですか…まぁ良い時間ですね」


「六時…」


 早い。

 なんならもっと寝たいまである、俺は姉さんとの添い寝でまだ熟睡というほどの睡眠はできていないんだ。

 俺がもう一度寝ようと布団を自分に掛けようとするが…


「ダメですよ奏方」


 姉さんは俺から布団を取り上げる。


「あぁ…!」


「どうしても温まりたいというのなら姉が温めてあげます」


「温まりたいから布団が欲しいんじゃなくて眠りたいから欲しいんだが…」


「なるほど…そういうことでしたら、私が……」


『♪』


 姉さんが何かを言いかけたところで、俺のスマホから通知音が鳴った。


「こんな時間に誰からだ…?」


 俺はスマホを手に取りそのメールを開くと…相手はここ最近は当たり前のようになっている露那だった。


「奏方…?そんなに青ざめてどうしましたか?」


「え…」


 メール内容は至ってシンプルで…


『今日一緒に登校しよ〜?』


 というものだった。

 そんなものでも顔を青ざめているということは…


「青ざめてるか?」


「…はい、何か嫌なことを言われましたか?それともそのお相手が嫌ですか?」


「嫌なことは…言われてない、相手は…露那だ」


「露那…昨日話していた方、ですか…」


 姉さんはまたも一瞬苦しそうな顔をする。


「奏方はその方からのお誘いを受けるのですか?」


「…外出するときは一緒って約束したから、実質俺に選択肢は無いのと同じだ」


「…でしたら、姉も一緒に同行します」


「え?」


 姉さんも…?


「はい、そうすれば奏方をその方から……」


「待ってくれ、それはあまりにも危険すぎる」


「危険…?何故ですか?」


「昨日も話した通り、露那は本当に何をするか分からないんだ、もしかしたら姉さんが危険に晒されるかもしれない」


「だったら尚更、そんな方と奏方を二人きりにするわけにはいきません」


「でも…」


「大丈夫です、姉はこう見えて武術も会得していますから」


 姉さんは微笑ましく笑ってみせる。


「そういう問題じゃ…」


「そんなに姉と一緒に登校するのは嫌ですか…?」


「ぐっ…」


 その言い方はあまりにもずるい。


「そんなことは…無い、じゃあ露那に確認してみる」


 俺は露那に姉さんも同伴して良いかという旨のメールを送信する。


『うん、良いよ!奏くんのお姉さんにも今の内にご挨拶しておかないとね!』


 そういう意味じゃ無いんだが…まぁ姉さんのことを嫌ったりはしてないみたいだ。

 まぁそれが普通なんだが、露那なら例えそれが姉弟でも姉さんのことを敵視しかねないからな。


「もし奏方をこれ以上悲しませるようなら…」


「姉さん…?」


「…なんでもありません」


 姉さんはその奥の感情を隠すかのように笑ってみせる。


「……」


 そう言えば昨日は優那ちゃんの配信は無かったな。

 まぁ別に毎日配信を公言してるわけでは無いしたまにこう言うこともあるからどうってほどのことでも無いか。

 その後俺と姉さんがご飯を食べてから雑談をしていると…

 インターホンが鳴った。


「あ、多分露那だ」


 俺がインターホンに出ようとするよりも早く、姉さんが玄関に出た。


「え、ちょっ?」


 俺は動きが早すぎて動揺してしまう。

 俺も急いで後を追うようにして玄関に向かう。


「おはようございます、黒園さん」


「えぇっと…え、奏くんのお姉さん…?」


「はい」


「……」


 すると露那は玄関の若干奥にいる俺のところまで駆け上がって来た。


「うわ…!?」


「奏くん、どういうこと?あんな綺麗な人がお姉さんなんて聞いてないよ?これじゃ奏くんがいつ浮気するか…」


「は!?相手は姉さんだぞ?浮気なんてするわけないだろ!」


「でも……」


「どうかしましたか?」


 姉さんが露那の行動に疑問を抱いたいのか、純粋に疑問を提唱している。


「な、なんでもないです〜」


 そうか…まだ露那が転校してきてから全校集会が開かれてないから姉さんが生徒会長だってことを知らないんだ。

 それが知っていれば俺と苗字が一緒だってことで露那もここまでは驚いてなかったんだろうな…


「…奏くんのお姉さんは奏くんのことどう思ってるんですか〜?」


 露那のことだ、きっとこの表情とは裏腹に色々と頭を回しているんだろう。


「とても出来の良い人だと思っていますよ」


「そうですよね〜!奏くんってほんっと出来良すぎですよね〜!そんな奏くんと血の繋がってるお姉さんもきっと奏くんと似てすごい人なんですね!」


「いえ…それよりさっきから言っている、かなくん、とは?」


「え?奏くんは奏くんですよ…?」


「随分とお仲が良いんですね」


「はい!」


 はい…か。


「…では、そろそろ登校しましょうか」


「そうですね!」


 露那は一足先に玄関から出た。

 そして姉さんが俺に耳打ちをする。


「奏方、帰ったらお話があります」


「…え?」


 …そんなわけがない。

 今まで俺は姉さんにそんなことをされたことがない。

 だからこれも思い違い…であって欲しいが、姉さんがもしかして…、のか…?

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