第3話食料を調達しますか?

 その後、他のゾンビがいないかを確認した袈刃音達は、ショッピングモール一階の食品売り場で食料を調達していた。


 もっとも、『買い物』をしている訳ではない。棚から食べられそうな物や飲み物をリュックに詰められるだけ詰め込んでいるのだ。


 仕方ない、金を払おうにもレジには誰もいないのだから。


 殺人などの凶悪犯罪が横行するこんな法律や倫理観が消え去った世界で、しかもゾンビの脅威まで抱えながら働ける人間はいないだろう。もし仮に存在したとして、それは十中八九途轍もないドマゾだ。


 そんな訳で、二手に分かれ当面生活できる分の食料を漁っていたのだが……。


「あぁぁぁッ、死にたい死にたい死にたいぃぃッ……!」


 死がより身近になった世界で、しかし、袈刃音は本気でそう思いながら四つん這いになり奇声染みた声で叫んだ。

 死者を冒涜する、かつ、幼馴染の前で無様にゲロを撒き散らすという恥ずかしい事をしたのだ。

 幾ら気持ち悪かったからといって、死体の上に吐くだとか、女子でなくてもドン引きである。


 穴があったら入りたい、寧ろ、そこで死ぬまで引き籠っていたい。


「こらーっ、袈刃音!『死にたい』とか冗談でも言っちゃダメでしょ?」


「げっ、旭…!?」


 一人悶えていると、いつの間にか戻って来ていた旭が腰に両手を当て言って来た。

 慌てて彼女の方を向くが、時既に遅し。またしても幼馴染の前で醜態を晒した袈刃音。


「『げっ』って何?私がいちゃダメだった?」


「い、いや、そうだったりそうじゃなかったり……」


「どっちかハッキリしてよ…。というか、まだ気持ち悪いんなら休憩してたら?それかもう一度吐いちゃうとか」


「き、気持ち悪くねぇし!吐きもしねぇよ!これ以上醜態晒して堪るかってんだ……」


 実はゾンビとなった自分と旭の両親を殺した直後も、同じように気持ちが悪くなり胃の中の物を盛大に撒き散らした袈刃音。


 いや、それ以前にも同級生からイジメられているなど、そもそも日常生活でもかなりの痴態を晒しているのだ。

 今更その程度の事で旭は動じない。

 それどころか。


「…さっきは格好良かったんだけどなぁ」


 もっとも、そんな旭の呟きは袈刃音に聞えていなかった。だって聞こえないように言ったから。


「ん?今何か言ったか」


「ふふ、内緒っ」


 悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言う幼馴染の顔を見ながら、袈刃音はきょとんとした顔になったが、直後何かに気が付いたのか口を開いた。


「そういや旭、リュックの中随分少ないな?それで全部だったのか」


「え?あ、そういえばまだ途中だったっ。ごめん、ちょっと待ってて。直ぐ終わらせるから」


 そう言って、旭は去って行った。


 しかし、旭は―――何時まで待っても帰って来なかった。

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