エピローグ

 江口荘のリフォームが終わり、ようやく元の部屋へと戻ることができた。


 すっかり部屋も見違えたように綺麗になって……ということはなかった。主な修理は壁の修繕だったので間取りが変わらないのは当然と言えば当然だが。


 自分の部屋から窓を開け、外の空気を吸う。今日は清々しい日になりそう──。


「やーいエロ荘の住人〜!」

「うっわぁ〜! エロそ〜!」


 外から聞こえるクソガキどもの声。清々しい朝が台無しである。


「今日こそはとっちめてやろうかクソガキども……!」


 速攻で下に降りてクソガキどもを成敗、とは行かなかった。下に降りた時点で奴らは既に逃走態勢に入っていた。


「「やべ、エロニートが来た! 逃げろ〜!」」


 これが若さか……。奴らは一瞬で逃げ去ってしまった。追いつける気が微塵もしない。


「あらあら、今日も元気がいいですねぇ」

「楓さん、一番大事なところが直ってないからクソガキどもが調子に乗るんですよ」


 そう、表札が直っていない。江口荘のさんずいが消えたままなので、エロ荘という不名誉の塊が継続してしまっているのである。


「まぁまぁいいじゃないですか。その方が賑やかですし」

「賑やかぐらいならいいですけど、騒音は勘弁ですよ」


 この調子だと表札は直ることはないだろう。俺は諦めて自分の部屋へと戻った。


「うわ」


 俺の部屋の前に珍しいことに恭子がいた。今日はトライデントが降るかもしれない。


「何よ、失礼ね」

「いや、俺の部屋の前にいるなんて珍しいから……。何か?」

「リリアちゃん知らない? 見当たらないからここだと思ったんだけど」

「リリア? あー、今日は魔界に帰るってよ」

「は? あんた、あれだけ皆から責められておいてまたリリアちゃんが帰ること黙ってたの? 死にたいの? ドMなの?」

「誰がドMだ。確かに帰ることは言ってなかったけど、なんでもすぐに行き来できるようになったんだと。だから遅くても夕方までには帰るとか言ってたな」

「あっそ。あーあ、またモデル頼もうと思ったんだけどなぁ」

「え? ウチのアシスタントをそんなことに使ってたのかお前」

「いつからアンタのアシスタントになったのよ。ちゃんと報酬も払ってるんだから文句ないでしょ。どこぞの誰かとは違って」

「ぐ……ま、まぁ? 俺は命と同等レベルのものを捧げる契約してるし?」

「はぁ? 何それ」

「おや、2人とも仲がいいでござるな~」


 部屋の前を偶然通りがかった聖也(オタクバージョン)が現れた。


「「よくない」」


「うむうむ。息もぴったりで微笑ましい限りでござる。それで拓巳氏、拙者、そろそろ尊み成分が足らなくなってきたでござるよぉ。更新はまだでござるか?」

「あぁ、今日中にはあげるから待っててくれよ。後その口調はもう古すぎるぞ」

「うっひょお! 全裸待機するでござる!」


 俺も依然として変わりなく、漫画を描き続けている。童貞は、まだまだ卒業できそうにはない。



 一方、魔界では淫魔3姉妹と母親が話し合っていた。


「それでね、3人とも将来のフィアンセ候補は決まった?」

「またその話ぃ? ママ、もう聞き飽きたよぉ」

「リリイちゃん、お母さんは心配なの。あなたたちぐらいの年頃だと、もう好きな人ぐらいはできてておかしくないでしょ。それに、お父さんが留守の時にしかこういう話はできないしね」


 現在、サタンは出掛けているので、今はメイドとリリアたちしかいない。もしサタンに聞かれようものなら、彼は転移魔法で娘の婚約候補者を見定めに行くだろう。


 そして、気に食わなければ惨殺も辞さないに違いない。


「さ、教えてちょうだい。リリアはまぁ……聞かなくても分かるけどね」

「……はいっ! えへへ」

「ふ〜ん、じゃあアタシも候補ならいるから言っちゃおうかなぁ」

「あら? そうなの? 後はリリスだけど……この前のパーティでもあまり成果はなかったみたいだけど……」

「(これ以上お母様を心配させるわけには……ふ、不本意、極めて不本意だけど仕方ない……!)じ、実は私もいます」


「「えっ!?」」


「……なぜ2人して驚くの?」

「だ、だって姉様、極度の男の人嫌いですし……」

「この前だって豚を見るような目でオスの悪魔を見てたし」

「そ、それは……と、ともかく! 私にも気になっている人ぐらいいるから」

「へぇ~? じゃあさじゃあさ、いっせーので言おうよ」

「私は良いですけど……」

「私も別に構わないけど?」

「良いわねぇ。よっ、盛り上げ上手っ! さすが三女っ!」


 ティアはお酒片手に上機嫌だ。完全に酔っ払っている。


「じゃあ、せーのっ」


 3姉妹の出した答えは、全員同じ人物だった。


「え、ええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「あらあら、大変なことになってきちゃったわね♡」


 三つ巴、魔のトライアングルが形成された瞬間だった。

 その事実を童貞の漫画家が知るのは、まだ少し先のお話。

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淫魔と童貞 処女サキュバスとエロ漫画家 Ryu @Ryu0517

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