ピーナッツケイヴ

文月八千代

 灰色の空にオレンジ色の夕日が浮かんでいるようだった。

 浅い眠りから覚めた私が見上げた天井は間接照明がぼんやりと光り、幻想的な雰囲気を作っていた。ここが住み慣れたワンルームじゃないと勘違いしそうになるくらい。

 ベッドに横たわっていた私は、体を右に傾け「ふふっ」と鼻から息を漏らした。


 視線の先にはこちらを見つめている彼氏――亮、の姿。いったいいつから見られていたんだろう? と思うと恥ずかしくなってくる。

 右隣にいる亮目がけて首を伸ばした私は、キュッと口角の上がった唇にキスをした。亮は返事の代わりに唇をついばんできて、「起きたんだ」と呟いた。


「私、寝ちゃってたんだ……」

 今日は金曜日。仕事を終えた亮が泊まりにきて、ベッドで愛しあった。最初は子猫がじゃれあうように。それから数え切れないほどキスをして、皮膚や粘膜でお互いの温度を感じあって。これは付き合い始めてからずっと続く一週間を頑張ったご褒美で、なによりも幸福な時間だった。

 目覚めたばかりの私はそんな余韻を噛み締めながら、すぐ側にある亮の体に抱きついた。



「こうしてると、ピーナッツになったみたい」 

 付き合い始めより少しふっくらとした亮の胸に顔をうずめ、呟く。

「ピーナッツ?」

 不思議そうな声の問いのあと、胸板に額を押し付ける。そしてそのまま答えた。

「うん、ピーナッツ。あれって殻があって、並んで入ってるでしょ? この部屋も同じで、中から見たらこんな感じなのかなって思って」

 なんとなく恥ずかしくなって、亮の体をギュッと抱きしめる。


「つまり、さ……。こうやってくっついていられるピーナッツも私たちも、幸せなんだなって……」

 薄暗い部屋と、裸体にうっすらとかかる羽毛布団。これが私たちだけの世界――殻に思えた。

「ハハハッ!」

 腹筋を細かく振動させて笑った亮は、腕にぐっと力を込めて抱き返してくる。


「やだ」と小声で私は言った。まるで、求められているようで。その証拠に亮はキスをしたり、髪を優しく撫でてきた。

「じゃあ、ピーナッツみたいにくっついていようか」

 甘い声で囁かれ、私は「うん」と小さく頷く。気付けばまどろみに落ちていった。



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