第3話
そうこうしているうちに、戦争の気配は濃くなっていった。
そこで結婚の話は日延べすることとなった。
ただ国王からのお触れによると、ともかく一戸につき一名。
数が必要なのだ、ということだった。
我が国は大国に挟まれた小国だ。
勝つなどということは絶対に考えられない。
だから目標は「有利な条件での講和」それだけだった。
そもそも我が国はともかく戦いたくない。
戦えば疲弊するのが目に見えているからだ。
だから国王陛下は、常に周囲に注意を怠らず、対話と駆け引きで何とかしてきた。
だが今回はそれだけでは済まなかった様である。
お触れ、及び都において国王陛下は国民に平易な言葉で真摯に懇願していた。
自身の力量が足りなかったために苦労をかける、できるだけ短い期間でこの戦争を終わらせるためにお願いする、と非常に低姿勢だった。
そうなると皆元々小さいが住みやすいこの国を守るべく、ともかく兵を一家から一人出す。
そして我が家からは私が出た。
誰、と決める訳でもない。ともかく私以外に戦える人間も居なかったのだ。
「戻ってきたら結婚式だよ」
そう母は言って、私に泣きながら謝ってきた。
無理だろう、と私は思っていた。
考えてみるがいい。
結婚を遅らせなかったら、婿である彼が我が家からは戦場に出たはずだ。
だがそれを延期したのは誰だ。
「お母さん、獲物の方が取れなくなるのが申し訳ないわ」
「そんなこと考えるんじゃないよ。肉以外でも、毎日の食事を必要とするひとは居るし、こういう時に、お父さんの遺した金の残りがあるんじゃないか」
妹はその言葉を聞いてびっくりしていた。
彼女には知らせていなかったのだ。
母は妹を金遣いの点では信用していなかったらしい。
*
さて私は、と言えば。
戦場はなかなか性に合っていた。
狩りの相手が獣から人間に変わっただけだった。
特に私の武器は弓だったこともあり、それが実に重宝された。
父譲りのそれは、空を飛ぶ鳥を撃ち落とすためのものであり、また、走り去る兎や鹿を狩るためのものだった。
大弓で遠距離の敵将を討ち取る。すると敵側が動揺する。そこを奇襲する。
そんな戦いにおいて、私は民間の一兵から、軍の中で正式に地位を与えられ、やがて敵側からも何かしら異名をつけられる様になったらしい。
そして二年。我が国にできるだけ有利な条件での講和ができた。
そして国王陛下は、その調印式の後、功労者に特別の報酬を、と別の式典を開いた。
死んだ兵士達への哀悼と遺された家族に対する手当、傷ついた兵士への仕事の斡旋等の話ののち、特別報償の話があった。
功績によって報償は違う。
そして私はその中でも最高の黄金勲章と、謝礼が贈られることとなった。
だが私は陛下から勲章をいただいた後、謝礼は不要、ということを告げた。
「私に多額の謝礼金を出すならば、それは先ほど仰せられた遺族手当の方へ回していただきたく」
「それでは私も、そして皆も気が済まないと思うぞ」
「私はそのまま軍に居続けようと思うので、衣食住の心配はしなくて良いのです。ただ、一つだけお願いがございます」
そして私は一つの報酬をもらって家への帰途をたどった。
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