第2話

 二年前、隣国との戦争において、勝てはせずとも有利な条件で負けるために、王は全土から徴兵を行った。

 一戸につき一人。これは厳命だった。

 基本的に兵士は男がなるものだったが、

残念ながらこの時点で、我が家には男は居なかった。


 元々は貧しい狩人の我が家では、父と私が一生懸命森で獲物を獲って町に卸すということで生計を立てていた。

 住んでいた土地が農業に適さなかったのだ。

 それでも貧しいながらも、父の良い腕と、その父に幼少時から仕込まれた私によって、日々の生活には困らなかった。

 だがその父が、森の主の熊と対峙、奴と相打ちになった際に亡くなった。

 森の主の熊は非常にいい値がついた。私達はそれは父の遺産ということにした。

 毛皮や肉や、その他様々な部分が売れるのだが、特に熊の胆が素晴らしい値で売れた。

 主の大きさに比例し、珍しい程沢山採取できたのだ。

 妹のエリザベスは父の死を悲しみつつも、この特別収入に目が爛々と輝き、町に出て商売をしよう、と母に勧めた。

 母も確かに、とその案に乗った。確かに私も狩りはできるが、父程の腕は無かった。それに、弓や罠に関しては長けていても、いざとなった時の剣の使い方には自身が無かった。

 私達は町に出て、女三人で料理屋を始めた。

 材料は私が主に狩ってくる。

 それを母が調理し、妹が給仕するという流れだ。

 小さな店だったので、父の遺産を使い尽くすことなく開店でき、美味い肉料理の店ということで、町ではそれなりに客が来るようになった。

 そんな折り、うちによく通ってくる商人が、自分の息子とうちの娘どちらかと結婚させたい、という話を持ちかけてきた。

 商人は信用できる人だった。だから母もその話に乗った。

 そして相手は、と言えば、順番だ。私と向こうの三男ライトが婚約することとなった。

 商人は息子を婿入りさせ、この店の経営をもっと楽にしてやりたい、と言っていた。

 まあ今から考えると、商人は要するに母の方に気があったらしい。

 だが寡婦である母はともかく、商人には妻と息子が四人居た。そして妾を囲う程の余裕はない。

 だが気持ちは純粋だったらしいので、自分に何かできないか、ということで話を持ちかけたのだという。

 さて私達と顔合わせした三男のライトは、相手が私であるにも関わらず、妹のエリザベスの方をちょいちょいと見ていた。

 ああ、彼は妹の方に気があるんだな、とその時から見て判っていた。

 だがだからと言って、彼はあえて妹との話に切り替えようとはしなかった。

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