見返り美人は振り向かない
〆(シメ)
島坂清晴は誘われない
他人から見たら概ね普通。
清晴の印象を他者から尋ねようものなら。
「明るい」
「優しい」
「勉強はあまり出来ない」
「スポーツならそれなりに活躍する」
「友達はけっこういる」
等々の返答が戻ってくるだろう。
清晴自身はと言えば、常日頃から自身は他人とは違う感性を持ち合わせていると信じているし、周囲の人よりも大きな悩みを抱えていると感じてはいるが、それらを他者に話す事によって解決する訳でもなし。と年齢に対して不相応にドライな思考も併せ持っている為、心中はすべて引っ
心の内を隠し、隣人に気を合わせ、不協和音を出さぬ様に笑顔を絶やさない。
そんな事に躍起になっているうちに成績は平均点以下赤点回避程度まで落ち込んだ。スポーツは比較的に得意ではあったがそれも運動部系には手も足も出ない程度の〝得意〟である。然して次第に、徐々に、必然的に。清晴は軽薄で淡白な態度を取る頻度が増えていった。
学校へ行き、クラスメイトとそつなく談笑して、放課後は部活動や遊びの雑談を交わすクラスメイト達の横を通り過ぎる。誰かの青春の
そう、島坂清晴は誘われないのだ。
「あの」
他人とは違う感性を持ち合わせているから。話は合わせられても好みは合わなくて、本当に好きな物を共有出来なかった。
他人よりも大きな悩みを抱えているから。下手に巻き込ませまいと一歩踏み込んだ話もしてこなかった。
言葉を選べば格好のつくそれらの行動も結果だけを述べれば、友人同士の大きなグループにたまにいる〝誰とも親しげだが、誰と親しいのか分からない存在〟そのものであり、それ以上でもそれ以下でもない。
「ちょっと」
その事実に気付いた瞬間、清晴の心の隅に小さく空いていた隙間に入り込んだものは、圧倒的な〝孤独〟であった。
談笑するクラスメイト達の輪に入りながらも、どことなく感じる疎外感。
例えるならば体育の授業で「二人一組になって」と言われた時、一番にではなく二、三番目に声を掛けられるまでの間。その数秒間に鎮座する永遠の空白期間。
「身に覚えのある例えはやめて」
いじめられている訳ではなく、無視されている訳でも無いが、クラスメイトの口から「仲の良い友達」という名目で島坂清晴の名前が上がる事は、
「ある! あるから! ほら、あいつ……あの……」
無かった。
「畜生!」
当時、島坂清晴少年。若干十五歳。市立
今までの自分の認識では、ネットにたまに流れてくる悲惨で気の毒な体験談。或いは特殊なケースで不幸自慢。ゆえに自分には縁遠いもの。だった筈の孤独という言葉。
ふとした気付きは正午の現国の時間だった。開いただけの教科書に目を通す必要はなく、電子辞書を引く事もなく突然その言葉の真に閃き、悟りを得た。
紐解けば縁遠からじである。孤独は、斜に構えていた自分に余裕で当て嵌っていた。にも関わらず、上手く渡り歩けていると信じて疑わないまま、中学校生活のほぼ三年間を無作為に浪費していたのである。
だが。清晴は気付いた。気付かなかったという事実に気付き、少しばかりそんな自分も嫌いじゃないとか悦に入っていた己の愚かさを知った。無知の知を全身で受け止め、覚醒した。一念発起である。
「もう許して欲しい」
清晴はまず、今までの交友関係とも言い難いクラスメイト達とのやり取りを白紙に戻した。
戻した。というのもおかしな話ではあるが、清晴のスマートフォンの電話帳は白紙に戻っていた。もともと連絡先交換後数日しかやり取りをしていない人達で埋められていた為、特に誰にも問題はないだろうと判断した。
「これ本当になかったみたい」
いつも帰宅後はネットで流行りのコンテンツを片っ端からさらい、クラスメイト達の話に合わせられる様に記憶していくという涙ぐましい努力もしていたが、それもやめた。
仲良しグループの輪にそっと加わり、ふんわりと話を合わせながら微妙な合いの手を入れるのも慎むことにした。
そうして空いた時間は、元々空いた時間は多かったが。さらに増えた空いた時間は、
「そんな繰り返す必要ある? ないよね? ねえ?」
勉強に費やした。
正直な話をすれば、受験を目前にした状況下で急に勉強に励んだところで、身に付く筈もない付け焼き刃ではあったが、それでも良かった。当日までがむしゃらに詰め込んで、試験で全てを吐き出して綺麗さっぱりに忘れても構わないという刹那的な覚悟が清晴にはあった。
全ては〝過去の自分との決別〟の為。
「お、なんかそれかっこい」
高校デビューの為に。
「すぐに消せ! その一文!」
そして、そんな清晴の全てを知る唯一の幼なじみと、同じ高校へ行く為である。
「ちょっと、ちょっとちょっともうストップ!」
とどのつまり〝自分もちゃんとした青春したい〟のだ。
「もうこれ絶対〝生徒紹介コーナー〟の趣旨から外れてるだろ! ちょっ、こっち向け!
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