第4話 死んだ機械群

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。



調査開始から数十分後:領域外宙域、第五三七星系、第七惑星、第二衛星、先ライトビーム文明廃墟、嘆きの森


 嘆きの森の外観の調査は特に得られる情報も無く、さっさと次の調査エリアに移動しようかとすら考えた。だがこれらの空向けて奇妙な音を響かせる産卵管じみた大気浄化システムの内部を一つも調べないのはそれはそれで退屈な話であろうと考えた。

 この場に己しかいない調査の仕事ではあるが、しかしそれならば己が満足できる調査結果をこそ尊ぶべきだ。誰にも急かされる事も無いし気苦労も無い。ならば己の機嫌でも取っていればいい。そしてそれに照らし合わせて不完全であれば…。

 そのように考えながらウォーロードは降下し始めた。ゆっくりと視界が下へと移行していった。巨人のような視点から徐々に人間のそれへと変化する世界を慣れ切った様子で眺めてから視点を真下に向けて、降り立つ予定の地点を見据えた。

 建造物と同じ黴と苔の中間じみた物体に結構な比率で覆われている地面には血管のような人工物が見え、しかしそれらがエネルギーを運ぶ事はもう無いらしかった。この地のその他の要素と同じく、正常に機能しなくなって久しいのだ。

 何かが起きた事で打ち捨てられ、少なくとも建物等の形状や大きさから想定できるこの衛星の住人は現在存在しておらず、不毛な大地が劣化にかなりの抵抗を見せている人工物を風化と侵食によって少しずつ傷めていた。

 この星系に存在した文明の誕生の地はこの衛星なのではないかと考えていたが、しかし往時の雰囲気は薄れてひさしかった。

 そのような束の間の思考は着陸と同時に終わり、彼は最寄りの産卵管じみた大気浄化システムに接近した。これらは建物と言っていい程度の面積があり、下の方は下部がとても肥大化した巨木のように太く、平均して十ヤード程の直径であった。

 ウォーロードはアーマーを操作してその右手で表面に触ってみた。この星系固有の物質を主成分にしているらしく、残りは主にブラウン・セラミックの比率が多かった。その表面は有機物的な不揃いさを備えており、恐らく建造した種族の美意識を反映していると考えられた。

 こうした事は後で報告書に纏めておこう。ここは文明の死に支配された地だが、保存状態自体は悪くない。今後PGGの気が向けば本格的に調査するかも知れないし、それは何百年も後かも知れない。それ自体はどうでもいい。

 周囲を回って入る手段が無いかを観察した。すると一箇所、まるで魔獣の悍しい口のような部分が見えた。だがそれをスキャンしてみると既に朽ちており、自動ドアとしての機能も停止し、手動で開けようにも少し力を入れただけでは無理であった。

 思うに永年の劣化によってドアと壁が癒着したのであろう。生身の種族が一般的に発揮できる平均的な腕力で開けるのは断念し、アーマーによる怪力でこじ開けようとした。ぐっと力が作用した事で何かの組織がぐちゃぐちゃと蠢くような異音がした。

 両手で強引にこじ開け、内部に何十世紀ぶりかの陽光が差した。入れるぐらいにまで広げ、そこから侵入した。まだ辛うじて生きていたシステムが反応したらしく、ぼうっと力無く壁が光った。

 壁自体に不規則に埋め込まれた発光器官じみたものが内側から光っているらしかった。まるで生物の半透明の組織が透けて見えているかのようであった。

 暗視を起動して弱い光を拡張し、緑色を基調とした視界が広がった。動く機械はやはり限られており、この照明器具とていつまで保つかは怪しかった。さて、何か目ぼしいものは無いものか。

 ウォーロードことヌレットナール・ニーグは周囲を見渡して着目できそうな何かを探した。歩き回って壁際に配置された様々な機械を観察した。壁と一体化した、硬化した体組織じみたそれらをスキャンして動くかどうか試してみたが、エネルギーの供給が止まっていた。

 自家発電的なシステムではないようで、今後も供給が無い限り稼働する事は無いらしかった。スキャンによって配線の流れを辿ると外の地面に繋がっており、それらは複雑に絡み合っていた。

 なるほど地面そのものに発電やそれに類いするシステムがあったのであろうが、劣化によってエネルギーを生み出す事ができなくなったのだ。

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