第2話 旅する引きこもり

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。



コロニー襲撃事件の一年前:領域外宙域、第五三七星系、第七惑星、第二衛星、先ライトビーム文明廃墟、嘆きの森


 最後にパラディンと会ったのはいつであったか。あの個人名を持たぬ種族出身の宇宙の騎士の事を、スレットナール・ニーグは今更になって思い出した。かつては友人同士であったが、あの事故以来のある種の自暴自棄めいた感情が彼との再会を、他のあらゆる人々との再会を含めて阻害していた。

 リハビリは結局のところ全くの挫折であった。その様を誰かに見られるだけで、それが親しかった者であっても、とても辛かったのだ。泥水を啜っているような己の様が、健常な周りの人々と比べて惨めに思えた。銀河を巡るギャラクティック・ガード達と比べて――己もその一員であるにも関わらず――圧倒的な隔世を感じた。

 彼らの中に己の居場所が見い出せなかった。首から下が全く動かせないという事実が巨獣の腐敗した死体のように横たわっていた。それは今後も主観的な永遠においてついて回る事実であろう。

 確かに銀河社会は高度に発展しており、その技術力故に、例えPGGですら治癒・解呪できない理不尽な呪いの類いがあったとしても――そして実際にあったわけだが――補助器具を作ったりする事は不可能ではない。

 現にウォーロードは普通の隊員が使うアーマーの代わりに己のガード・デバイスそのものを巨大な搭乗式のアーマーへと変化させて、それを纏う事でギャラクティック・ガードとしての任務に就いている。

 時々自室へと帰った際等にはアーマーを脱ぎ、その時とて部屋内の装置が彼の生活をサポートしてくれる。

 だがそういう事ではないのだ。彼は己の肉体で動き回り、そして今まで銀河のために戦ってきた事が誇りであり、存在意義であったのだ。文字通り己の手足で道を切り開いていたのだ。

 今ではその手で運命を切り開くどころか、顔に付着した汚れを拭い去る事すらできない。その程度の事すらできないのだ。ふと何か食べたくなって、そこに歩いて行きたくなってもそれらは機械の世話にならないといけない。

 そのような、かつての生活で言えば最低限の活動すら己の手足ではできないのだ。その様を、パラディン達に見られる様を想像した――否、実際に見られたのだ。当然彼らはその正義感及び慈愛精神で彼を助けようとした。

 それがたまらなく虚しかった。少なくとも彼の精神は、それについてとても辛いと考えたのだ。最低限の尊厳すら奪われ、リハビリで少し無茶をすれば友の世話にならなければならない。

 リハビリとは名ばかりの、補助器具が無ければ何もできず、首から上を必死で動かすだけの様であった。彼はそうして心が閉鎖されていくのを感じた。人々との付き合いが苦痛であったのだ。己の凋落を見られたくなかった。

 それよりは、こうしてアーマー状にした巨漢じみたガード・デバイスの内側にこもって、そこから外界を眺めながら一人で仕事をする方が気が楽であった。

 やはり今にして思うと、こうして辺境の地を旅しているのは誰にも会わないで住むからなのかも知れない。あるいは高危険宙域のような人口密集地帯であっても、そこで人々と深く交わらずすべき事をするだけ。そうする事でしか心を保てないのであろう。

 ギャラクティック・ガードとして、その中でも特定の管轄エリアを持たないゴースト・ガードとして人々と深く関わらない今の生活が性に合っていた。実家はもちろんだが、宿舎に帰るよりも出先で野宿する事の方が多い。このアーマーの中にいると、あらゆる全てと遮断されている感じがした。

 目を背けたいあらゆる事実との間に巨大な城壁を設けたかのような感覚があった。そうする事で安心ができた。心を平穏に保つ事ができた。社会と最低限の繋がりを持って、やや隠者めいた生活を送る。それでいいのではないか。

 最初に己の事をウォーロードと呼び始めたのが誰かはスレットナールにはわからなかった。

 少なくともその呼称は、彼がリハビリを断念し、大柄なアーマー状にしたガード・デバイスの内側に乗り込んでゴースト・ガードとして任地無きまま流離い始めてしばらくしてから、風の噂や報告の際の最低限の会話で知るようになった。

 そのような事はどうでもよかった。ウォーロード、かっこいい名前だな。それだけがせめてもの救いであり、数少ない社会との繋がりであるように思えた。

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