WARLORD――コミュニケーションに難ありだけど正義感は強い宇宙警備隊の青年が社会と向き合う系

シェパード

先ライトビーム文明廃墟における遭遇・戦闘

第1話 始まりの日

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。


 我々は眠り人、舌を噛み言葉を呑む。我々は火を点けて燃えるに任す。夢見者達を通し、我々は鼻歌を聴く。彼らは言うのだ『さあさあ行こう』と。故に『さあさあ行こう』と…。

――オブ・モンスターズ・アンド・メン



コロニー襲撃事件の一年前:領域外宙域、第五三七星系、第七惑星、第二衛星、先ライトビーム文明廃墟、嘆きの森


 あの一件以降、随分上は己に対して甘くなったなと考えた。あるいは負い目であるのかも知れないが。既に年金も出ているし、追加手当てもある。まあ首から下は指先一つ動かす事もままならないような後遺症を負ったのであるから、名誉の負傷という事にしておこう。

 血の滲むようなリハビリや、己自身で考えた様々な治療法も全く役には立たず、ある種の諦観に支配され、己にも他人にも多くを期待しないようになり、何もかも他人事に思え始めた。

 無気力から来る怒りにより、リハビリ当時に右脚の第二関節を何度も補助機械の思考操作で殴った事があったが、何も感じられなかった。胸に虚無が押し寄せ、右顎に刻まれた得体の知れない刻印が疼く気がした。

 強いて言えば使命感は未だに燃え盛っていて、そこだけが生き甲斐であるように思われた。


 事件当時の同僚とはほとんど会わなくなり、故郷の家族や親しい者達とも連絡を取らぬまま久しく、ゴースト・ガードとして一人で行動する事が増えた。音声や映像による報告以外で誰かと交流する機会も減り、PGG標準時で数日間誰とも話す機会が無い事も当たり前となった。

 普段は報告も文章と添付画像のみを送信して済ませる傾向にあるし、まあPGG自体はこちらのバイタルサインや様々な体調を把握しているのであるから、こちらが任務をこなしている以上はそう何も言うまい。その内カウンセリングに連れて行かれるかも知れないが、知った事ではなかった。

 たまに思う事は、任務で数光年以内に誰も味方がいない状況下が当たり前で、そして己は全身を覆う巨大なアーマー状に変形させているガード・デバイスの機能が無ければほとんど何もできないという事だ――万が一の時、じわじわと死の恐怖がやって来るかも知れない。

 だがそれがどうしたというのか。ガード・デバイスは高度な科学力によって製造されたPGGの科学力の結晶であり、あらゆる状況で動作し、自己修復し、破壊困難で、個人携行火力としては破格である。

 ディスラプター兵器や加速兵器や空間圧縮兵器を備えた艦隊同士の戦いにガード・デバイスの所持者達は航空機等に乗り込まずに参加できるのだ。そのような強力なものですら万が一の事態に陥るというのであれば、それは仕方が無かったという事だ。そのような場合には麻痺障碍があろうと無かろうと変わるまい。

 ウォーロードの通り名で呼ばれるヌレットナール・ニーグは、今や通常のゴースト・ガードよりも任務における裁量が事実上増加しており、差し当たって彼は一人になれる場所、すなわちあらゆるフロントラインやフロンティアを偵察・調査し、有益な情報や何かしらのサンプルをPGGに提供していた。

 一匹狼のように流離い、たまに誰かに感謝されればそれでよかった。彼自身己の精神がどのような状態なのかよくわからず、ある種の自暴自棄なのであろうかと考えた。彼の任務は自由気ままに見えて危険性がとても高く、アウトロー達との抗争はもちろん、古代文明の遺跡探索中に危険な何かに遭遇する事とてあり得た。



数分後:領域外宙域、第五三七星系、第七惑星、第二衛星、先ライトビーム文明廃墟、嘆きの森


 黴と苔の中間のようなものでその表面を覆われた何かの産卵管じみた物体が天向けて伸びており、厚いメタンの雲で覆われた陰鬱とした空模様に恨み節を言うかのごとく、異様な低い呻き声――建物が軋む音にも聴こえた――をその先端から発していた。

 腹の底から絞り出すようなその音は不規則に途切れてから再開するのを繰り返しており、そうした物体が数百本程あり、それぞれは平均して数百フィートに及んだ。地面の岩に走る無数の血管じみた何かは既に劣化して久しく、機能しているとは思えなかった。

 これらの有機的なデザインの物体達が実際に生体的なものなのか、あるいは単なる人工物や機械なのかは不明だが、遥か昔に放棄された何かの施設か、あるいは街かも知れなかった。

 付近一帯には生命反応が全く見られず、この遺構も含めてもしかするとPGGの常識では測れない形態の生物ならいるのかも知れないが、しかしウォーロードが受けた印象では死んで久しい地でしかなかった。

 かつては強壮な種族であったはずのウォーロードは、その全身を覆うどころか巨人のように見せている大柄なアーマーの補助が無ければほとんど何もできない己が、このようなどこか不気味さすらある廃墟の只中にいる事を不思議に想いながら、とりあえず調査を開始した。

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