第11話 女騎士にいつも愛用の剣について訊ねてみたい


 その日は妙に、気になりました。

 騎士団に支給されるものではなく、彼女はいつも柄ごしらえだけを合わせたやや長めの剣を提げています。

 戦いの中で見かけた刀身の色も白銀ではなく、暁のようにほのかに金色に輝く、目を奪われそうな業物わざものです。

 思い切って、訊いてみました。

 その剣は、思い入れのあるものなのか。もしや家宝の類なのか、と。

 すると彼女は、どこか寂しげな眼をして答えます。


「ああ。これは――――我が家に仕えた鍛冶職人が私の十五歳の祝いに打ってくれたものだ」


 椅子に腰を預け、外した剣をテーブルの上に置き、さらに続けます。


「高祖父の代から仕えていたそうだ。私にとってはもう一人の祖父と言ってもいい。……とても美しく鋼を鍛える方だった。打つ槌の響きは腹の底にまで響く低い歌声のようで、火花が咲くごとに鋼が輝きを増すのが見えた。まるで、この世界を照らす光を封じ込めているようで、炉を眺める顔は、慈愛に溢れ優しくもあったものさ」


 騎士フラン=ノエルの独白は、さらに続きます。


「……そして、彼は身罷られた。私の、この剣を打った翌日の朝の事だった。工房に見に行った私と、鍛冶職人の弟子が発見した。……火と鉄の男が、冷たくなっていたんだ。だが彼は命を失っても、握りしめた槌を決して離さなかった。……そのままで埋葬したよ」


 言って、彼女は少しだけ剣を抜き、見せてくれます。

 わずかな光の中でさえ、夜を終えつつある空を輝かせ照らす暁の光のように輝く、不思議な、燃えるような黄金の刀身を。

 燃え盛る炉の光景さえまぶたに浮かび、会った事さえないはずの職人の、ごつごつにふしくれだった手指までもが見えてくるような逸品です。


「それから、私は少し荒れていたように今は思う。……さんざん卿に思い出さされる通りの、傲慢で、鼻持ちならない私。……まぁ、そういう謂れのある剣、という訳さ」


 そして彼女は立ち、剣を腰へ戻すと感傷を振り払うようにかぶりを振りました。


「この剣の重さを感じるたび。抜き放つたび。自らに課すようになったのは最近だ。……二度と、あのような振る舞いはしない。二度と、他者を軽んじる浅慮の輩になどなるまい、とな」


 話を終えたフラン=ノエルは、窓越しに沈む夕日を見ます。

 その眩しさは、まさしく、今見た黄金の刀身から発せられたようにさえ思えました。


 彼女が自ら銘じた剣の名は、“薄明”の意味を持つ異国の言葉。

 いくら世界が回ろうとも、黄金の炎は闇に追い立てられ、そして巡り闇を晴らすもの。


 黄金の輝きは、鍛冶職人の親方の思いを秘めて、今も、フラン=ノエルのそばに。






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