第24話 憎たらしい事にやがて涙は乾く

登場人物

―リヴィーナ・ヴァンマークス・シュワイツァー…軍人、魔術師、友の復讐に燃えるドミネイターの少女。

―C.M.バースカラン…リヴィーナの後輩、年若き二〇代の青年。

―ドーニング・ブレイド…不老不死の魔女、オリジナルのドミネイター、大戦の英雄。



二一三五年、五月七日、夜:北アメリカ大陸、ミシシッピ川条約機構議長国『新アメリカ連邦』領、旧フロリダ州地域、暫定グレーター・セミノール保留地近郊、コースト・プラザ・ビル、屋上レストラン跡


 朝が訪れた。ドミネイターになった頃は、本来眠れるはずの時間や状況でも意識が続いている、一向に『途切れ』が無い事が本当に苦痛であった。

 そしてやがて、リヴィーナであれ他のドミネイターであれ気付いた事がある――そんなものはすぐ慣れる程度のものであるという事。

 リヴィーナはふと、パトリックの事を心配した。彼は恐らくカレンにもラニの訃報を伝えたはずだ。二人とも悲しんでいるであろう――己やバースカラン、そして少佐のように。

 だが結局のところ、涙が乾いていくという事実は覆せなかった。当然その時は本当に苦しいものだ。つまりあらゆる苦痛が発生した瞬間とそれから一定期間は。

 だが結局涙が乾く事に気が付いてしまう。思い出すだけで寒気がするような拷問の経験でさえ、大切な人を亡くした事でさえ、『一生引き摺る』はずの事に慣れてしまう。

 ドミネイターにとって、辛い体験は辛い体験であって、それによって心を病む事は無い。何かしらの辛い体験によって『もう戦えない』となったドミネイターは一人もいなかった。

 まあ第一世代の場合は眠れない事が心身への負担であり、それのみが弱点ともなって常備薬が必要であったが、常備薬を飲みさえすれば眠れないという事実には慣れるし、そして第一世代であれ第二世代であれ戦災で大切な人を亡くしてもそれに慣れてしまった。

 傷だらけになろうとドミネイターは折れなかった。その事実に気が付いた時、多くのドミネイターはそのような己が嫌になる――そしてその嫌になった事も受け入れてしまう。

 まあ考えても仕方が無い。復讐を始めよう。


「おはようございます、少佐。よく休めましたか?」

 リヴィーナは立ち上がりながら辺りを見渡して言った。

「おはよう、大尉。いつでも行動を開始できそうだよ」

 ドミネイターの少女は頷いてから、バースカランの方を見た。両者は軽く挨拶を交わした。

「ヴァンマークス、何から始める?」

「そうだな…まず検死結果を」

 そう、ラニと身元不明の誰かの遺体について。冷静になれ、よろしい。どうせ怒りとて涙と同じくやがては乾く。それならばもっとすべき事をしなければ。

「いや待て…少佐、我々はその、検死結果を聞いたりあるいはそもそも事件の調査なんてできそうですか? 我々はあくまで連邦軍の者ですから…」

「そうか、その話をしていなかったね。私は連邦軍の軍人である前に『フロリダのセミノール部族』の部族員だからね…まあ、融通が利くと言えば利く立場だよ」

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