保留地で何が起きているか

第13話 両親を殺されたあの日の事

登場人物

―リヴィーナ・ヴァンマークス・シュワイツァー…軍人、魔術師、友を探すドミネイターの少女。

―ドーニング・ブレイド…不老不死の魔女、オリジナルのドミネイター、大戦の英雄。



二一三五年、五月七日:北アメリカ大陸、ミシシッピ川条約機構議長国『新アメリカ連邦』領、旧フロリダ州地域、暫定グレーター・セミノール保留地、正面ゲートの内側


「さて、時間ができたな。私はあなたに、ここで何が起きているか今度こそ説明したい」

 ブラック・セミノールの不死の魔女はそれ自体がビルのような巨大な壁と流線型ビルで囲われてどこか威圧感のあるゲートのすぐ内側にて、喧騒を耳にしながらそう言った。

「そうですね。そうしてくれれば助かります」

 リヴィーナは感情を押し殺すように答えた。風が吹き、壁で囲われたこの暫定的なインディアン保留地は少しだけ雰囲気が和らいだ。

 だが周りの兵士達を見ると、緊張感が漂っているのは明らかであった。

「了解した。ここで起きているのは、まあ簡単に言えば二つの派閥の対立という事になる。どこから話すべきか…」と彼女は言葉を区切った。「ヴァンマークス大尉、遡れる最も古いこの対立の原因はつまり、あの第一次メンフィスの戦いにある」

 そう言われ、リヴィーナは気が遠くなるような、あるいはぼうっとするような感覚を味わった。

「大丈夫かな?」

「ええ。まあ…その、あの戦いの頃私は十二歳で、愛する両親はあの戦いのあの忌々しい虐殺の中で死にました。ああいえ、少佐が申し訳無く思う必要はありません」

 リヴィーナは死んだ両親について考えた。あの日の事は忘れられない。愛する人々が殺されたあの日…しかし。


 第一次メンフィスの戦いにおける大虐殺が思い出された。リヴィーナの両親が無残に眼前で殺され、息を潜めて瓦礫の中から見たあの日の記憶。

 腐ったミートボールのような尋常ならざる敵方の個体が緑色にぎらぎらと輝く複数の眼球で地獄めいた眼差しを振り撒いていた。

 あまりのショックに涙すら出なかった。化け物じみた生物の群れが殺戮を繰り広げ、それらは一様に緑色に輝く目で獲物を探していた。

 一瞬で引き裂かれた両親の残骸が落下し、隠れていた彼女は呆然としている事しかできなかった。

 戦時中の鬱屈とした中でも、愛する両親との思い出は存在していた。十二歳の時の惨劇以来、それらを振り返る事が難しくなったのは事実ではあるが。

 悲鳴と死の音が響き渡る殺戮の喧騒の中で少女は息を必死に押し殺した。叫べば確実に死ぬ。両親に駆け寄ったりそれについて嘆いたりすれば死ぬ。それだけは理解できた。

 生き残った者の罪悪感。死んだ愛する人達について今この場で悲しめない不義理。しかしどうしようもなかった。彼女が隠れている泥と血が混ざった瓦礫の外では、圧倒的な虐殺が続いていたのだ。

 口に出すのも無残な二人の死体について考えると今でもどうしようもない心境にさせられた。

 生気の無い目、どくどくと流れ出る血、その他のあえて口にしたくない損壊。己を愛し育てた人々の成れの果て。残酷でしかなかった。

 だが両親を殺したそれについて、リヴィーナは今となってはある程度冷静に考える事ができた。突如としてあの個体の目の色が、獣が暴れ狂うような振る舞いと共に変わり、見えない何かを振り切るのを目撃したあの夜。

 その光景に何かを感じて無防備に瓦礫の中から出たリヴィーナは、両親を殺した腐肉じみた浮遊物体の前に出た。

 それの目が特に輝きもしない赤へと変わり、両者の目が合った。特に何も無いままの時間が流れたあの記憶。永遠のような気さえした束の間。

 それはやがて、同じく何かを振り切った様々な姿の同胞らと共にメンフィスから高速で離脱していった。

 今でも考えてしまうのは、あの異次元生物の目に宿った何かしらの感情であった。リヴィーナは己が何かしらの感情――例えば遺族が殺人犯に同情するような――に陥りついそう考えてしまうのか、それとも己の推測が実際に正しいのか、今一つ判断に迷ってはいた。

 だがどうしても、あの個体が邪悪な殺戮モンスターであるようには思えなかった。どうしても、あの時あの個体が宙からリヴィーナを見下ろしながらその眼球群に浮かべた感情が、ある種の申し訳無さや謝罪であるように思えてならなかった。

 かくして少女は、愛する人々の仇に対して複雑な感情を持っていた。

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