お前は、ここにいたのか
第7話 出会い、そして嫌な予感
登場人物
―リヴィーナ・ヴァンマークス・シュワイツァー…軍人、魔術師、友を探すドミネイターの少女。
―ドーニング・ブレイド…不老不死の魔女、オリジナルのドミネイター、大戦の英雄。
二一三五年、五月七日:北アメリカ大陸、ミシシッピ川条約機構議長国『新アメリカ連邦』領、旧フロリダ州地域、暫定グレーター・セミノール保留地近郊
ドーニング・ブレイド、というのは明らかに本名では無かろうが、しかし本人がそう名乗り、それで通っている以上はそう呼ぶ他無かった。
頭部のいわゆるゴールデン・ポイントよりやや下の箇所へ向けて、横方向へと上部のロックスが纏められた髪型であり、それより下のロックスは大半が背中の方に垂れていた――今は風で揺れているが。
灰色っぽい黒髪はとても長く、ロックス状に編まれたそれらは式典の装飾のようですらあった。
各々のロックスは完璧・綺麗に編まれているというよりはあえて
黒い肌の色はかなり濃く、それにより逆に光をよく反射していた。眉や睫毛は兵士と思えない程よく手入れされており、それを見るとどうにもリヴィーナは己を恥じた――人はいつの世も身嗜みに縛られる。
彼女の目は左は黒っぽい茶色だが右が紫色であり、一定周期で紫から銀に色が変わっていた。
身に着けた黒っぽいアーマーは明るい緑色の発光部を備えており、ゲーミングPCをやや想起させた。
黒っぽいマントを羽織った彼女の身長はリヴィーナより頭一つ分程高かった。
「ドミネイター第二特殊任務群のリヴィーナ・ヴァンマークス大尉です」とリヴィーナは敬礼した。
「既にご存知のようだが…ドーニング・ブレイド少佐だ」と相手は答えた。「なるほど、あなたもドミネイターか」
リヴィーナはその言葉を受け止めた。というのも、ドーニング・ブレイドと名乗る魔女はドミネイター計画の重要ポジションの一人であり、ドミネイターは『彼女をモデル』として施術されたのだ。
ざっくり言えばドーニング・ブレイドは不老不死の魔女であり、少なくともアメリカの様々な歴史をその目で見てきたとも言われていた。
まあともかく、オリジナルのドミネイターであれ、同じドミネイターである事に変わりはない。そこにやや親しみを感じた。
「ええ、まあ。ドミネイター同士だと何やら親近感もありますね」
リヴィーナは被っていた三角の皮膜か何かのようなフードを脱いで素顔を晒した。
黒っぽい地毛である事が生え際の色でわかる、明るい茶色に染めた長髪がフードの中から解き放たれて風に揺られた――長髪の人物がバイクのヘルメットを脱ぐ仕草と似ていた。
左耳側をかき上げて露出させたウェーブヘアが蒼穹の下で輝き、しかし有機的な服の襟元が自動で下がった事で、首の左側にある火傷痕が晒された。
赤みが差した白い肌は肌荒れもしていないが、しかしどこか
フィットしたトップスは紺色のビニール素材で、軍で使われる特殊素材であった同じ色のゆったりとしたカーゴパンツも、外見以上の防護性があった。
リヴィーナを遠目に見た場合やはり目を引くのは腐敗した体組織のごとき外套であり、傷んだ鯨の革をベースにして、その上に地球外の素材で作られたそれら有機的な物体が貼り付いていた。
それらは生きているかのように蠢き、骨とも体組織とも判別のつかないある種グロテスクなものでありながら、実際には古い記録に登場する異星文明のテクノロジーを参考にして作製されていた。
外套から伸びた有機体じみたものが彼女の胸の上辺りを繋ぐように配置されており、それによって外套を固定しているらしかった。
高度な環境適応能力を持つこの衣服はケイレン帝国のテクノロジーのかなり劣った模倣ではあるが、地球どころかドーン・ライトのそれと比べてもかなり高度であった。
ドーニング・ブレイドはリヴィーナの心臓の辺りで脈打つ肉塊を見て、その高度なテクノロジーに関心しつつも、不意に浮かない顔をして海の方をちらりと見た。
「そちらに何か?」
不死の魔女は一瞬反応が遅れた。
「ああ、それは…」
彼女達は砂浜が見える場所にいた。誰もいない道路に立っており、気になったリヴィーナは更に砂浜へと接近した。
黒い無数の何かが見えた。それらは動いており、明らかに生物であった。まさかと思ったが、恐らく鮫らしかった。
何かの衝撃で海まで吹っ飛んだビルの破片が突き刺さっている辺り、浜から沖に何十ヤードか行った辺り。
よく知らないが、しかし鮫が理由も無くここまで岸に接近するのか。更には、上空には奇妙な羽を備えたドーン・ライトの生物の群れが飛んでいた。
鯨でも死んだのか? あるいは…。
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