異世界がないなら作ってしまえ(仮題)

貯古菓子

第1話 失踪

「1京?」


 高校3年間放置していた電子口座があり得ない金額になっている。

 僕が高校の授業で作ったアプリ『ゲームdeマネー』がいつの間にか世界中の共通通貨になってしまった。


「一体何でこんなことに」


 よくある仮想通貨がいわゆるネズミ講だと気づいて、その当時得意だったフリーソフトウェアのアプリ開発でお試しに作ったゲームソフトと仮想通貨を組み合わせて発表したらお金持ちになれるんじゃないかと考えただけだったのに。


「1、10,100,1000…」

「夢じゃないな」

「これ僕が作ったって発表したらどえらい騒ぎになるだろうな」


 僕は早まる動悸を抑えながら、現状を正確に理解するために、思考を整理することにした。

 まず、もう受験勉強しなくていいんだよな。

 いや、受験勉強どころじゃない。

 もう働かなくたって生きていけるじゃないか。

 そうじゃない。

 このアプリを僕が作ったってバレたら、命はない。

 しがない地方の高校生が、誰も手にしたことのないお金を持っていると知れたら、命を狙われてしまう。

 だって、そうじゃないか。

 何の後ろ盾もないこの僕がこんな大金手にしているって知られたら誘拐されるか殺されてしまったっておかしくはないんだ。


 ゴクリ。


 僕が大人だったら、このアプリを大企業に売ったり、ボディガードを雇うなりして身を守る術を手に入れることもできたはず。

 

「いや待てよ!」

「確かここに…」


 あったあった。

 ネットニュースにはアプリ開発者は不明の日本人で、もう既に死んでいるって。

 

 よし!これだ!


 今日は、1月25日。

 しがない地方の高校生が大学受験を失敗して一人失踪したところで、誰も気にすることはない。

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