天使の刃
ふゆ
天使の刃
「この新兵器のコードネームは、天使だ!」
参謀総長は、誇らしげに語った。
俺は、眉をひそめた。
「何で兵器が天使なんだ。狂ってるのか…」
俺の国は、テロリストによる大規模な自爆攻撃を受けて以来、事件に関わったテロ集団の掃討作戦を展開してきた。
今回、発表された新兵器は、その目的達成の切り札として、開発されたものだった。
「このAIを搭載した無人兵器で、平和を脅かすテロリストを亡き者にし、同胞の無念を晴らそうではないか!」
場内に拍手が鳴り響いた。
「総長殿、その兵器は天使などではなく、悪魔ではありませんか?」
俺は、思わず口走ってしまった。
場内は静まり返り、周りの兵士の視線が俺に集中した。
「今のは、誰の発言かね?」
総長は、兵士たちの視線の先に顔を向けた。
俺は、しらを切ることができなくなり、その場に立ち上がった。
「陸軍第203大隊参謀部所属、ライス・ステートであります」
「続けたまえライス君。発言を許可する。何故そう思うのかね?」
意外だったが、後に引けなくなった。
「私は…今回開発されたAI搭載の無人兵器は、躊躇することなく攻撃を行う、無慈悲な破壊兵器だと思います。そのような殺人マシンを天使と呼ぶのは、兵器の本質を曖昧にする、極めて不適切な表現ではないでしょうか」
総長は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ライス君。君は、この兵器の本質をよく理解しているね。確かに、この兵器は、戦争の形態を根本的に変える画期的なものだ。その成果は、弾道ミサイルに匹敵する衝撃と恐怖を世界に与えるだろう。君の言う通り、悪魔その物かも知れない」
場内がざわついた。
「では何故、天使と呼ぶのですか?」
「私は、この兵器を悪魔にしたくはない。平和をもたらす使徒であって欲しいと思っている。天使と名付けたのは、敵の諜報活動を撹乱する目的もあるが、使う者を戒める意味を込めたつもりだ。ふざけて付けたりは、決してしていないことを、分かって欲しい」
ほどなく会議は終了した。総長は降壇すると俺を呼び止め、小声で伝えた。
「明日から私のチームに合流したまえ。これは命令だ。上官には私から伝えておく」
次の日から俺は、参謀総長直轄の特務チームに転属になり、天使のオペレーターの任務についた。
「これが、会議の席で参謀総長に物申した酬いなのか…」
その日から連日、天使の発射シミュレーション訓練を繰り返した。その操作の中で俺は、この兵器の恐ろしさを改めて実感した。
天使に搭載されているAIは、地上のあらゆる情報網とつながり、自ら判断して脅威を排除する能力を備えていた。
「人は、この兵器を制御できるのだろうか?」
俺は、実戦使用に懐疑的になっていたが、その日は、唐突にやって来た。
テロの首謀者と幹部の居場所が、突き止められ、直ちに攻撃せよとの大統領命令が下ったのだ。
地下発射施設が緊迫感に包まれる中、総長は、チームに指示を出した。
「人類の脅威を消し去る時が来た。今こそ、同胞の無念を晴らす時だ!」
そう言うと、俺に目で合図をした。チーム全員が私に注目していた。
俺は腹を決め、訓練通り発射作業をこなして行った。
荒野の地面が不自然に陥没しスライドすると、カタパルトにセットされた天使が地上に姿を現した。白い羽のような翼が太陽の光に輝いていた。
最終安全装置を解除し、発射ボタンを押した。天使は滑るように大空に飛び立って行った。
猛獣が放たれたと、俺は恐怖したが、一連の作業を見守っていたチームの仲間は雄叫びをあげ、基地内は歓喜に包まれた。総長も感極まった表情で、モニターを凝視していた。
しかし、その喜びは、すぐに消え去った。
発射された天使が反転して、我々に向かってきたのだ。
「どうした?何が起こった?故障か?…」
「分かりません。全て正常です。入力した敵の座標にも、誤りはありません!」
基地内は、騒然となった。
総長は、すぐに破壊を命じたが、制御系は、既に天使に支配されていた。
「コントロールできません!」
太陽を背にした天使は、黒い悪魔のように見えた。
警報が鳴り響き、人々が逃げ惑う中、ただ一人俺は冷静に、この事態を見守った。
「お前は、このチームを人類の脅威と判断し、その刃を我々に振り下ろすつもりだな。成る程、総長の言った通り、お前は世界に平和をもたらす使徒だったんだな…」
広大は砂漠の中で爆発が起きた。ゆっくりと光の輪が広がっていった。
天使の刃 ふゆ @fuyuhara
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