第36話 お城すごいですね
「おおー、いい部屋だなあ」
「そうですね。宿のお部屋の10倍はありそうです」
「ミキヒコ殿は賓客としてもてなすように言われているのでな」
俺とラナさんはボーリンさんに城の一室へと案内された。
城はヨーロッパ風の古城といった趣のあるもので、内装もバロック風っていうのかな? ともかく凝っていた。
部屋の方も素晴らしく、王侯貴族が暮らすための一室と言われても信じられるくらいだ。
まあ、ダラダラとするだけの俺にはほぼ必要ないのだが、狭くて汚いよりも、広々としていて清潔なほうが良いに決まっている。
ベッドだって天蓋付きのふかふかである。
ラナさんの抱きごこちもまた変わってくるだろう。楽しみだ。
「それではミキヒコ殿に言われたとおり、食事は運ばせることとしよう。そらくらいならば魔術の修練とやらにも影響は少ないのじゃったな?」
「ああ」
俺がボーリンさんに不干渉の条件を突きつけた際に、その理由として俺の無心流魔術の修練のためだと伝えているのだ。
全くの嘘ではなく、実際に怠惰にゴロゴロとしていなければ怠惰ポイントは貯まらないのだから仕方ない。
「うむ、ではそうさせてもらおう。基本的にはわしはここには来ん。じゃが、何かあったら呼んでくれ。出来るだけのことはしよう。さて、では謁見は3日後の予定じゃ。またその際にな」
そう言ってボーリンさんは部屋から出ていった。
ふむ、とりあえず今日、明日、明後日と何もせずに過ごして良いらしい。
・・・素晴らしい。
「よし、じゃあ早速ダラダラするとしようか!」
俺がテンションを上げてそう言うと、ラナさんもニコリと微笑んで「はい」と頷いてくれる。
彼女は俺の手を取るとベッドの方へと向かう。
そして、俺のことを抱きしめると、ベッドへと寝そべるのだった。
「馬車の移動でお疲れでしょう。しばらく私の胸でゆっくりとお休み下さいね」
俺はふわふわとしたおっぱいに顔をうずめる。
「ラナさんがいてくれたから、とても快適だったけどね」
それにとても気持ちよかったし。
「そう言って頂けると嬉しいです。私のような者がご主人様のお役に立ててるかと思うと、本当に」
そう言って撫でてくれる。
うーん、相変わらず自己評価が低いなあ。
まあ、勘違いして傲慢になっちゃうよりは良いのか。
「ラナさんがいてくれないのは嫌だな。ずっと一緒にいて欲しいよ」
でも、フォローはしておく。あまり自分を粗末にして欲しくないからな。
「はい、私こそ何とぞご主人様の奴隷として一生お仕えさせてくださいませ」
「ああ、そういえばその奴隷ってやつだけど、俺としては解放しても良いと思ってるんだけど、どうかな?」
これはずっと考えていたことだ。
ラナさんに惚れ込んでる俺としては、彼女の意に沿うことを出来るだけしてあげたいのである。
まあ、解放した途端、逃げちゃうかもしれないけど。
だが、俺がそう言うとラナさんはビックリしたような表情をした後、なぜだか泣き出しそうな顔になった。
な、なんでだ?
俺がラナさんの反応に驚いていると、彼女が声を震わせながら言った。
「わ、わたし、な、何か粗相をしてしまいましたでしょうか? でしたら、なんでもおっしゃってください! すぐに直しますから! ご主人様の好みに合うように性格だって改めますから! あ、でもこの容姿は・・・変えられないかもしれませんが、せめてもっと痩せてご主人様がご満足される体になります。だから捨てないでください!」
そう言って俺にすがりついて本当に泣き出すのであった。
ええー?
俺が面食らっていると、ラナさんは更に深みにはまってゆく。
「や、やはりこの性格がダメでしょうか? ご主人様の元に来る前も、他の女性から頭がとろくて使えないと言われていました。あっ、それともやはり容姿自体がお好みではないのでしょうか・・・。た、確かにご主人様ほどの方となれば、もっと美人の方がお似合いで・・・」
どんどんヒートアップしてゆくラナさんに対し、俺は慌てて声をかける。
「ちょ、ちょっとちょっと、ラナさん。別に捨てたいだなんて思ってるわけじゃないから。むしろ今のままが最高だから変えなくて良いっていうか・・・。俺は単にラナさんが、奴隷の身分を嫌がってるかなって思っただけだよ」
俺がそう言うと、ラナさんはキョトンとした後、
「嫌な訳ありません」
と、はっきりと宣言するであった。
そ、そうなのか・・・?
「奴隷でいれば、私がご主人様の所有物であることが明確です。ずっとずっと、ご主人様の物でいられます。他の誰でもない、ご主人様だけが私の支配者なのです」
彼女の目は真剣そのものだ。
ただ、瞳の奥には深淵を覗き込んだ時のような深い闇が広がっていた。
ラナさんって普段はおっとりとした優しいお姉さんなんだが、めちゃくちゃ重いよな・・・。まあ、俺みたいな社会不適合者には、ラナさんくらいが合ってるんだけど。
「あの、それよりも先ほどおっしゃっられたのは本当ですか? 私を捨てたい訳ではないのですね?」
ぐっと顔を寄せてラナさんが聞いていた。
まあ、そんなことは実際考えたこともない。
「さっきも言ったじゃないか。ずっと一緒にいて欲しいって。ラナさんが嫌(いや)にならない限りね」
俺がそう言うと、ラナさんは心底ほっとしたのか「えへへ」と泣きながら笑う。
「よ、良かったです。これからも、ずっと奴隷でいさせてください」
「う、うん。ラナさんがそれで良いなら」
だが、俺の言葉にラナさんは少し考える仕草をする。
ど、どうした?
と思ったら突然俺に馬乗りになった。
こ、今度はなんだ?
「ご主人様が私を解放しても良いと考えられたのは、やはり私のご奉仕が足りないからですね・・・申し訳ありませんでした・・・」
「いや、そういうわけじゃないと思うが・・・。それに、愛は十分足りてると思うけど・・・」
だが、俺の言葉は彼女の耳には届いていないようであった。
「今日は反省して一日中、ご主人様を愛し続けます。ご主人様が私を奴隷として手放したくないと思うまでたっぷりご奉仕させて頂きますから」
「いや、それはもう十分っていうか・・・」
「愛していますご主人様。私のご主人様。私はあなたのものです。あなただけがいれば良いです。他には何もいりません。ずっと一緒にいたいです。ずっと私の視界の中にいてください。眠るときは隣にいてください。いっぱい私の唇を吸ってください。口づけをしてください。痛くしてください。肌にご主人様の跡をつけてください。肌に触れてください。匂いを私につけてください。ご主人様のものだと分かるよう強い匂いをなすりつけて。夢にだってご主人様が出てこない日はありません。ご主人様が御亡くなりになる日に私も死にます。愛しています。ご主人様ご主人様、ご主人様・・・」
あ、ここまでは伝わってなかったかも。
「俺なんかの何がいいのかねえ・・・?」
そんな俺の呟きにラナさんは、
「そういうところ・・・」
そう言って俺の口を塞ぐのであった。
◆◇◇◆
うーん、太陽の光がにじんで見えるぜ・・・。
昨日のラナさんは半端なかった。
部屋の中が男と女の匂いで充満している。
ラナさんはさすがに今朝方まで頑張りすぎたせいで、もう昼前だというのにまだ寝ている。
怠惰の道を極めんとする俺がするべきことではないが、今日ばかりは俺が窓を開けて喚起することとしよう。
そう思って俺がベッドから立ち上がった時であった。
ドンドンドン!!
激しく部屋の扉が叩かれたのである。
ん、なんだろう?
ああ、メイドさんが朝食を持ってきてくれたのかな?
少し時間が遅いけれど、多分俺たちが眠っていたから時間をずらしてくれたのだろう。
俺がそんなことを考えているうちに、扉がもう一度、ドンドンドンと強くノックされる。
「はいはーい、開いてますよー、どうぞー」
急(せ)かされるようにして俺は返事をする。
メイドさんの割にはなかなかぞんざいだなぁ、と思いつつ。
だが、部屋に入ってきた相手を見て、俺は「どうぞ」と言ったことを早速後悔したのであった。
確かに、入ってきたのは想定通り女性だったのだが、その姿が白銀の鎧を身につけた女騎士たちだったからである。
何よりも、
「やーやー、ミキヒコとやら、いざ尋常に勝負~!!」
そんなセリフを先頭にいた女騎士が口にしたので、更に頭を抱えたのであった。
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