第187話 隊長が負ける訳にはいかない

 梅雨入りをして雨が多くなってきたある日の休日。海里と綾佳は出掛けることを断念して、後日撮影で使う新しいジャンルのゲームを練習することにした。


 そのジャンルとはスポーツだ。

 このゲームには5つのスポーツが入っており、レベルを上げるごとに経験値が溜まりプロになることができる。

 

「綾佳。今日はスポーツゲームをやるぞ」


「はい!海里隊長お願いします!」


 なぜ隊長なのかは分からないが、綾佳がノリノリだったのでそのまま話を続けることにした。


「それじゃあ、綾佳は最初に何をやりたい?」


「私はボーリングかゴルフをやりたいと思っています!」


 どっちもやりたいな…でも動画で見応えがありそうなのはボーリングだよな。

 

「視聴回数のことを考えるとゴルフよりもボーリングの方が伸びそうだな」


「では海里隊長の言う通り、ボーリングをやりましょう!!」


 綾佳は微笑しながら満面の笑みをしながらガッツポーズをした。


 海里は、「はいはい」と言いながら、ゲーム機にカセットを読み込ませてテレビを付けた。

 そのあと入力切替をして、テレビにはゲームのホーム画面が映っていた。


「綾佳がプレイヤー1とプレイヤー2どっちがいい?」


 海里は二本のリモコンを綾佳に見せた。

 彼女は右側のリモコン。つまりプレイヤー1を選んだ。


「それじゃあ始めるぞ」


「お願いします!」


 海里はボタンを押していき、ボーリングの選択画面まで進めていった。そしてお互いにキャラを選択して【スタート】ボタンを押した。


「まずは私からだね!」


 そう言って、綾佳は向きと角度を調節していき、腕を後ろに下げて勢いよく前に振った。


 ボールは真っ直ぐ進んでいったが、微妙に右にずれたのでピンが8本倒れた。そのまま2回目を投げて安全にスペアを取った。


「綾佳やるなぁ〜 俺も負けてられねぇ」


 海里のターンになり、自分も向きと角度を調節し、腕を後ろに下げてから勢いよく前に振った。


 ボールは少しだけ斜めに曲がり左側のピンに当たり9本倒れた。そして何事もなくスペアを取った。


「海里隊長やりますね。だけど、勝負はまだ始まったばかり。気を抜かないでくださいよ!」


「もちろん!ここで気を抜く人はいないさ。俺は勝利を目指すからね」


 お互いにバチバチと視線を合わせる。ただのゲームなのだが、この二人から感じるのは本気の勝負だった。


「私、このターンはストライクを出すことを宣言します!」


「やれるものならやってみろ」


 海里は腕を組みながら、綾佳のターンを見た。


 彼女は少しだけキャラを右にずらし、角度を軽く左寄りにして腕を振った。

 ボールは転がりながら少しずつ左にずれていき、真ん中のピンに目掛けて当たった。

 

 結果はストライクだった。


「やったー!海里隊長どうですか〜!」


 綾佳はニヤニヤしながら、肘で海里の腕を突いてきた。


「綾佳…やるじゃないか。綾佳に出来るなら、隊長の俺にも出来るってことだよな」


「海里隊長は無理しなくてもいいんですよ。私がストライクを出せたのは偶然なんですから」


「無理はしてない。俺だって偶然…いや、狙ってストライクを出してみせる!」


「それなら海里隊長、見せてください」


 海里はキャラをその場に固定させ、そのままボールを構えた。

 その時に綾佳は動かさないことに驚いていたが、気にせずに腕を後ろから前に振った。


 ボールはそのまま一直線に進んでいき、真ん中のピンへと突っ込んだ。

 そのまま後ろのピンも倒れていき———


 ———ストライクを出した。


「どうだ!これが俺の実力だ!」


「くっ…海里隊長なかなかやりますね。ですが、ボーリングは全部で10ターン制。勝負はこれからです!!」


「そうだな。残り8ターンでどちらがスコアを伸ばせるか受けてたとう」


「私だって。海里隊長に奢ってもらう為に負けられません!!」


 綾佳は自分のターンだったので、キャラの向きや角度などの調節を始めた。


 奢ってもらうってなに?そんな罰ゲーム何も聞いていないのだけど。海里は困惑しながらも、一つの結論に辿り着き綾佳のターンに視線を向けた。


 すなわち、自分が勝てばよいと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る