第156話 綾佳外堀大作戦①
自宅撮影があった日から数日が経ったある日の放課後、綾佳は楓と二人でレストランで会っていた。
「大好きな綾佳さんからお誘いをしていただけたのは嬉しいのですが、メールで言っていた頼みとは何ですか?」
綾佳が楓を呼んだ理由はその頼むをするためであった。そのために綾佳は海里がお風呂入っている時にこっそり携帯を見て、楓の連絡先を手に入れた。
そして綾佳からメールを貰った楓は当たり前のように家で叫んだ。
「その… 何というか… 海里くんのことでね… 」
綾佳は人差し指をツンツンしながら呟く。
「海里さんのことでしたか。私は別に海里さんを狙ってる訳ではないですよ。というより、彼氏いますし」
「それは分かっているんだけど、最近二人とも仲良さそうだなと思って… 」
「綾佳さん、ぶっちゃけてもいいですか?」
「う、うん… 」
楓が真剣な顔で言ってきたので、綾佳はゴクリと飲み込む仕草をした。
「私は海里さんに綾佳さんと早く進展してほしいと思っています。なんなら、海里さんに『進捗はどうですか?』とまで聞いてますよ」
「 !? 楓ちゃんいつの間にそんな事をしていたの?!」
「四月くらいだったはずです。あの時に海里さんに『綾佳さんは海里さんと恋人関係になりたいと思っています』や『綾佳さんはラッキースケベを狙っているのかも』など伝えのですが… 海里さんはやはりヘタレの中のヘタレのようですね」
「えっと… 海里くんを焚き付けようとしたのは分かったんだけど、私がラッキースケベを狙っている?!」
「あら?私には一瞬そんな顔に見えたので」
楓は小悪魔な笑みを浮かべてから、持ってきていたアイスティーを口に含んだ。
それを聞いた綾佳は顔を引き攣りながら
(楓ちゃんにこんな裏の部分があったとは… だけど、外堀を埋めるには最強の協力者になるかも)
外堀を埋めるには数人の協力者が必要。
候補としては麗音、レイナは決定していたが、それだけでは足りないと思っていた。そこで目を付けたのが海里と最近仲が良い楓だ。
楓は颯斗の彼女であり、自分のファンである。口も硬そうだし、ノリノリで手伝ってくれると思っていたが———頼む前から行動していた。
いずれにせよ、自分が海里と同棲していることを颯斗に近々伝えないといけないと思っている。
それをクリアーすれば、学校生活では安心して過ごせるのは間違いない。
なら、楓に頼むことは二つだけになる。
「ラッキースケベの件は一旦置いといて、私からの頼みは二つあるの」
「二つ… ですか?海里さんのことなので、一つだと思ったんですが」
「うん。楓ちゃんと話していて、もう一つ浮かんだの。話してもいいかな?」
楓は再びアイスティーを飲み、そして頷いた。
「一つ目が海里くんをもっと焚き付けてほしい。私は夏までにはカップルに進展したいと思っているんだけど… ほら、海里くんってヘタレでしょ?告白は無理なのかなって… 」
「そうですね。何度もお話して思いましたが、海里さんは恋愛系になると一歩引いた感じになりますね」
「そうそう。だから、もし告白が無理そうだなって感じたら、私から行くことにしたの!」
「綾佳さん!!私、海里さんに告白させるように頑張って動いてみます。ですが、彼はなかなか手強いので———」
「———大丈夫だよ。その時は私にメールして?そのメールが私から告白する合図だと受け取るから」
綾佳からの優しい言葉に、楓はうっすら涙を浮かべる。
「ありがとうございます。それで二つ目は?」
「颯斗くんに私と海里くんが同棲していることをカミングアウトしようと思っているの。付き合う上でやっぱり颯斗くんが一番の障害になるし、海里くんの家に来たいって言ってるし… 」
綾佳は苦笑しながら頬を掻いた。
綾佳にとって颯斗は海里の良き友達なのだが、自分のファン寄りでもある。
そして、偶に勘がいいのが怖い。
「やっぱり颯斗関係でしたか… 確かに颯斗は海里さんの家に行きたいとは常々言ってます。そして断られる度に、『はぐらかしたから何かあるんじゃね?』と私に言ってきますね」
「颯斗くんって頭いいから、勘が良さそうだよね。時々、変なことしているけど」
綾佳の言う変なこととは、校外学習の時に歩いている女性を見ていたことである。
「それでも颯斗は颯斗なりに私の為に尽くしてくれるので憎めないのですがね」
楓は、うふふ… と呟きながら、「それで」と言葉を続けた。
「颯斗に同棲していることを伝える件ですが、私は別に伝えなくてもいいと思いますよ。それでも伝えようと思っているなら、一度海里さんと話し合ってください」
「海里くんに相談か… 楓ちゃんと会ったことがバレちゃうな… 」
「そこは偶然会ったことにすればいいと思いますよ?今日だって海里さんには、
「流石に海里くんの携帯を勝手に見て連絡したとは言えないからね(笑)」
楓は微笑しながら頷き、口を開いた。
「それで二人の結論が出ましたら、
「私、楓ちゃんが頼れるお姉ちゃんに見えてきた」
「ちょ… 綾佳さん?!」
突然綾佳は立ち上がり、楓のいる座席へとやってきた。そして抱きついた。
その行動に楓の声は戸惑っているが、顔はニヤけているように見えた。
「ごめんごめん(笑) 改めて、楓ちゃん、私の協力者になってくれますか?」
綾佳は右手を楓に差し出す。
「もちろんです♪ こんな面白そうな話断る訳がありませんよ!」
楓は微笑しながら、反対の手で綾佳の手を握り返した。
「それじゃあ、残り三十分だけどガールズトークでもしてから家に帰ろっか」
「ですね!」
時刻は午後六時を迎えようとしていた。
二人は午後六時半には解散と決めていたので、残り三十分は楽しいガールズトークに花を咲かせてから帰ることにした。
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