第11話 布団派?ベッド派?

「いや〜なかなか楽しい時間だったね」


「綾佳は楽しい時間だったかもしれないけど、俺にとっては緊張でそれどころじゃなかったよ」


 二人は事務所を出て、宮益坂を下っていた。

 綾佳にとってあの空間は楽しかったようだが、海里にとっては窮屈で気が重たくなる空間だった。


「優しそうな顔をしてるから怖くないと思うけど、社長としての威厳はあるもんね」


「流石、芸能事務所の社長だと思ったよ」


 そんな事を話しながら、二人は渋谷駅に着いていた。


「さて、海里くんお昼は何食べようかね?社長から一万円という二人で少しは贅沢出来るほどのお金を貰ってしまったが」


「そうだな〜少し気になったのは、食事にしては量が少ないかもしれないけど、ロブスターサンドウィッチって書いてあるお店かな」


「あーあそこね。私も美味しくて、何度か食べてるんだよね〜」


「美味しいんだ!ダメかな…?」


 海里は羨ましい顔をしながら、綾佳のことを見た。

 綾佳は溜息を吐きながら、口を開く。


「仕方がないな〜でも、浮いたお金は海里くんの部屋を作るのに回せばいっか」


「ありがとうございます」


 海里は綺麗な直角のお辞儀をして、お礼を綾佳にした。



「すみませーん。ロブスターサンドウィッチ二つお願いします」


「かしこまりました。お会計が二千五百円になります」


 綾佳は持っていた一万円札をトレーに置いた。

 店員さんが受け取り、レジで読み込みお釣りとして七千五百円と番号札をトレーに置いた。


「では、番号が呼ばれるまでお待ちください」


「分かりました」


 海里の元にやってきた綾佳は、海里に番号札を渡した。


「ちょっとお金を財布にしまうから、番号札持っててくれる?」


「分かった」


 番号札を受け取ると、綾佳は財布にお金をしまう。

 しまい終わると、海里から番号札を返してもらい椅子に座って呼ばれるのを待っていた。


「一番の番号札をお持ちのお客様、お食事ができました」


「はーい」


 どうやら番号は一番だったらしく、綾佳は取りに行った。

 海里はベンチに座って、綾佳が持って来るのを待つ。


「はい!こっちが海里くんの分ね」


「ありがとう」


 海里は綾佳からロブスターサンドウィッチを受け取ると、口に運んで食べた。


「お…美味しい!!ロブスターの弾力がある噛みごたえに、ガーリックバターで味付けされてパンと相性が良すぎる!!!」


「海里くん、食レポ意外と出来てて驚きだよ」


「思った事がそのまま口に出たから」


「それでいいと思うよ!食レポはテレビだと詳しく伝えないとダメだけど、海里くんは一般人だから。それでも一般人にしては、テレビ向きの言い方だったけどね」


 少し微笑みながらそう言うと、綾佳も一口齧る。

 そして頷きながら少しずつ食べていった。


 海里も黙々と食べていき、二人ともすぐに完食をした。



「そーいえば、海里くんってベットと布団どっち派?」


 食べ終えて少し休憩してた時、おもむろに綾佳が聞いてきた。

 一瞬、疑問に思ったが綾佳の家に予備の布団が無いと分かりそれで聞いてきたのだと納得。

 そしてこれから住む以上、綾佳は好みを聞いてから買う事にしたのだろう。

 

「どっちかと言うと、布団派かな。ベットだと寝相が悪いと落ちそうで…」


 海里は決して寝相が悪い方では無い。

 だけど、今まで布団で生活してきたので慣れもあり布団を選択した。


「布団か〜それなら、衣料館を寄ってから帰ろうか」


「衣料館って家の近くにあったっけ?」


「家の最寄りから、二駅先の駅を降りてすぐの所にあるよ。帰りはタクシーで帰っちゃおうか」


 流石に布団を持って電車で帰るのは辛いので、こればかりはタクシーで帰る事にも賛同した。


 そして海里達は渋谷を後にして、衣料館のある駅へと移動を始めた。




 目的の駅に着いてから少し歩いた所に、二階建ての建物が見えてきた。

 そこは海里達が向かっている衣料館で、一階にはスーパーが併設されている。


「ここで布団を買いましょう。いい布団が見つかるといいね!」


「とりあえず、中に入って触り心地を確認してからだね」


「それも大事だね」


 綾佳は真剣な顔をしながらサムズアップした後、海里の腕を掴んで中に入っていった。


 中に入り階段を上がって二階に着くなり、すぐ横に敷布・布団が陳列されていた。


「海里くん、目的の物すぐ見つかったね」


「分かりやすくて、助かる。さっそく、布団を確かめるか」


 そう言うと海里は一つずつ布団を押したり、触ったりして確認していく。

 棚にあった布団は三つですぐに確認は終わり、海里は頷き一つの布団を手に取る。


「綾佳、この布団が丁度いい感じだった」


「結構拘りますね〜だけど、快眠には自分のあった物が必要だから私、共感できるな」


「綾佳はベットで寝てるんだよね?」


「そうだよ。結構拘ってベットを選んだから、私の快眠はバッチリなの!仕事も快調だし!」


 綾佳は元気いっぱいに腰に手を置き、ピースした手を目元に添える。

 

「うん。元気なのは分かったよ。あとは、敷布と枕かな」


「少し扱いが雑だけど、まぁいっか。そうだね、掛け布団も必要だから追加のお金は私が出すから気にしないでいいよ」


「何から何までありがとございます」


 海里は段々と得意になってきているお礼をする。

 そして海里は残りの三つもすぐに選んでお会計をした。

 合計金額は、昼のお釣り代よりオーバーしていたのは当たり前だった。


 買い物が終わり海里の両手には布団と掛け布団を持っていて、綾佳は枕を抱いていた。


「布団なら音もしないから、いつでも私が海里くんの事を襲えるね」


 すると綾佳は音もなく耳元に口を近づけて小声でからかってきたので、海里は顔が赤くなりそっぽを向いた。

 

 そして呼んでいたタクシーに乗り込み、家まで楽して帰る事が出来た。

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