天涯孤独になり彷徨っていたら、トップアイドルに拾われました。
夕霧蒼
第1話 終わりの始まり
高校一年の終わりに近づく一月中旬、閑静な住宅街の中にある高校ではお昼休みを迎えていた。
高校の校門近くにある庭園では、いつも数組の生徒がお昼を食べているが今日は一段と冷え込んでいて暖房の効いた教室で、昼食を取っている人が多かった。
寺本海里もその一人であった。海里は普段は友達の楚辺
だが海里は教室で昼食を取るのには抵抗があった。理由はお弁当にある。
海里のお弁当は母親の手作りだが、蓋を開けるとキャラ弁になっていて可愛すぎるのだ。
そんな今日のお弁当はサッカーボールのおにぎり、タコさんウィンナー、顔のついた卵焼き。
(母さん…キャラ弁は辞めて欲しいって言ったのに)
周りの人たちにバレない様に、海里は手でお弁当を隠しながら素早く食べる事にした。
お弁当が残り少しとなった頃、教室のドアが勢いよく開いた。
そこには息を切らした担任が立っている。
「寺本、話があるから職員室に来てくれ」
「わ、分かりました」
海里は何が何だか分からないまま、お弁当を片付けて先生のいる職員室へと向かった。
「先生、話と言うのは何ですか?」
「落ち着いて聞いてくれ。寺本の母親が職場先に向かう途中に事故にあったらしく、緊急搬送されたそうなんだ。病院はメモしといたから、今日は早退して行きなさい」
「あ、ありがとうございます」
海里は先生の話を聞いて、すぐに教室に戻り荷物を纏めた。
そして自転車を出し、急いで搬送された病院に向けて漕ぎ出す。
自転車で一時間掛けて搬送された病院に着いた海里は、受付で話を聞き待合室で待っていた。
「寺本さん、三番の部屋へどうぞ」
海里は受付の人に呼ばれて、指定された部屋に入室した。
入室すると白衣を着た医師が座っており、海里に座るように促した。
「寺本さん、落ち着いて聞いてください。貴方のお母さんは、事故で———」
海里にとってその言葉は、どんな言葉よりも辛く悲しい現実だった。
その場で泣き崩れて、立てなくなるほどに…
その後、これからの予定などを話し合い、家へと帰路についた。
◇
あれから一週間が経った。
一週間の間に学校をお休みをしたり、衝撃的な出来事が海里の身に起こった。
一つ目が、母親の遺品整理をやっていた時に料理レシピが出てきて細かくメモしてあった事。
これがあれば海里が困らないと思い、母親が残してくれていた。
二つ目が、住んでいたアパートを出て行く事になった。これは海里が家賃を払えなくなると思われ、強制的に退去されたようなものだ。
部屋の中の荷物も処分する事になり、残ったお金がほぼ無い。
そして母親の両親や親戚を知らなかった為、海里は天涯孤独になってしまった。
「はぁ、俺はこれからどうすればいいんだろう…こんなホームレスみたいな感じになって」
海里は大雪が降り注ぐ中、スーパーで貰ってきた段ボールにくるまりながら公園のベンチに座っている。
「それにしても寒い…このままではやばい。俺はここで死んでしまうのか…学校にもまだまだ通いたかったな…」
段々と独り言が増えていく海里。
体は寒さでどんどん震えて行き、顔色も悪くなって今にも意識が飛びそうになっていた。
そんな時公園の入り口から、雪を踏みしめて歩み寄ってくる音が聞こえた。
海里は音が聞こえる方を向くと、一人の女の子が立っていて話しかけてきた。
「行く当てがないなら、私の家に来ない?」
海里は話しかけてきた黒髪の女の子の事を知っていた。
彼女は———瀬倉綾佳で今をときめくトップアイドルだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます