3
四人で、だらだらっと話しているうちに、午後十時になった。
布団を敷くことになった。母親や妹が泊まりに来た時に使う布団も、押し入れからひっぱり出した。
「意外と敷けるなー」
「敷き布団、二枚じゃ足りないよ」
「明日、もう一枚買ってくるかー」
「買ってくるな。これ以上、敷けるスペースなんかないぞ」
栄ちゃんが、さっそく布団に寝転がった。続いて、ヒサも。
「ぎゅーぎゅーだよ。せまい」
「そう言うなよー。俺なんか、壁とくっついてるんだからー」
「岡田は、俺の隣りな」
「いーよ」
灯りを消した。
疲れていたのか、ヒサと栄ちゃんは、すぐに寝ついてしまった。
岡田は、俺の隣りで横になっている。ふいに体温が遠ざかる気配がして、閉じていた目を開けた。
岡田が、布団から這いでていくのが見えた。声はかけなかった。
まっくらな部屋が、ぼんやりと明るくなった。スマホのライトらしい光が、岡田と一緒に動いていく。
肌掛け布団を頭まで被った。
シャワー室のドアが開いて、閉まる音が聞こえた。それから、水音。
だいぶ経ってから、ドライヤーの音が聞こえ始めた。その頃には、俺はもう、うとうとしていた。
すべり落ちるように、眠りについた。
* * *
「あいつら、洗濯しないで出かけやがって……」
乾燥機能がついていて、よかった。俺の分だけだったら、いつもと同じように干していたと思う。あまりにも大量に見えて、心がくじけた。だけど……。洗濯物を干したくない理由は、それだけじゃなかった。
昼前に、三人が大量の食材と日用品を買って帰ってきた。
宿代の代わりだと言われて、仰天した。さすがに、大学生の頃とは違うらしい。
「オカモンの料理、めっちゃうまいなー」
「ほんとだね。どこかで習ったの?」
「おばあちゃんがおせてくれた」
「有馬からのコメントがないね」
「……うまいよ」
空いた皿を流しに持っていく。岡田は、流しをスポンジで掃除してくれていた。
「ごちそうさま」
「おそまづでした」
「洗うから。置いといて」
「あんがとー。ちっとだから」
皿を洗う手つきは、慣れたものだった。岡田の家には、両親がいない。そのことを俺が知ったのは、大学二年の時だった。
のどかな田舎にある、母方の祖母の家で育った。そう言っていた。
午後一時になった。
「今から打ち合わせするから。静かにしてて」
「ラジャー」
「了解!」
「わがった」
うなずいたわりには、三人とも、俺の背後から動こうとしない。
「オンラインに映りこもうとするんじゃねーよ。画面がうるさい」
呼び出し音が、ノートパソコンから鳴った。もう、出るしかない……。
「有馬くん。ずいぶん、画面がにぎやかねえ」
「すいません……。居候が、三人もいて」
「ワンルームじゃなかった? すごいわね。三人って」
五分くらいで打ち合わせは終わった。上司の品川さんが、俺ではなく、俺の後ろを見ている様子だったのが心配だ。査定に響くんじゃないのか。これ。
「やばい。品川さんに引かれた……。ぜったい、やべー奴だと思われてる」
「思われないだろー。このご時世だし」
「コロナとワンルームで四人暮らしは、何の関係もないだろ……」
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