四人で、だらだらっと話しているうちに、午後十時になった。

 布団を敷くことになった。母親や妹が泊まりに来た時に使う布団も、押し入れからひっぱり出した。

「意外と敷けるなー」

「敷き布団、二枚じゃ足りないよ」

「明日、もう一枚買ってくるかー」

「買ってくるな。これ以上、敷けるスペースなんかないぞ」

 栄ちゃんが、さっそく布団に寝転がった。続いて、ヒサも。

「ぎゅーぎゅーだよ。せまい」

「そう言うなよー。俺なんか、壁とくっついてるんだからー」

「岡田は、俺の隣りな」

「いーよ」


 灯りを消した。

 疲れていたのか、ヒサと栄ちゃんは、すぐに寝ついてしまった。

 岡田は、俺の隣りで横になっている。ふいに体温が遠ざかる気配がして、閉じていた目を開けた。

 岡田が、布団から這いでていくのが見えた。声はかけなかった。

 まっくらな部屋が、ぼんやりと明るくなった。スマホのライトらしい光が、岡田と一緒に動いていく。

 肌掛け布団を頭まで被った。

 シャワー室のドアが開いて、閉まる音が聞こえた。それから、水音。

 だいぶ経ってから、ドライヤーの音が聞こえ始めた。その頃には、俺はもう、うとうとしていた。

 すべり落ちるように、眠りについた。


 *    *    *


「あいつら、洗濯しないで出かけやがって……」

 乾燥機能がついていて、よかった。俺の分だけだったら、いつもと同じように干していたと思う。あまりにも大量に見えて、心がくじけた。だけど……。洗濯物を干したくない理由は、それだけじゃなかった。


 昼前に、三人が大量の食材と日用品を買って帰ってきた。

 宿代の代わりだと言われて、仰天した。さすがに、大学生の頃とは違うらしい。


「オカモンの料理、めっちゃうまいなー」

「ほんとだね。どこかで習ったの?」

「おばあちゃんがおせてくれた」

「有馬からのコメントがないね」

「……うまいよ」


 空いた皿を流しに持っていく。岡田は、流しをスポンジで掃除してくれていた。

「ごちそうさま」

「おそまづでした」

「洗うから。置いといて」

「あんがとー。ちっとだから」

 皿を洗う手つきは、慣れたものだった。岡田の家には、両親がいない。そのことを俺が知ったのは、大学二年の時だった。

 のどかな田舎にある、母方の祖母の家で育った。そう言っていた。


 午後一時になった。

「今から打ち合わせするから。静かにしてて」

「ラジャー」

「了解!」

「わがった」

 うなずいたわりには、三人とも、俺の背後から動こうとしない。

「オンラインに映りこもうとするんじゃねーよ。画面がうるさい」

 呼び出し音が、ノートパソコンから鳴った。もう、出るしかない……。


「有馬くん。ずいぶん、画面がにぎやかねえ」

「すいません……。居候が、三人もいて」

「ワンルームじゃなかった? すごいわね。三人って」


 五分くらいで打ち合わせは終わった。上司の品川さんが、俺ではなく、俺の後ろを見ている様子だったのが心配だ。査定に響くんじゃないのか。これ。

「やばい。品川さんに引かれた……。ぜったい、やべー奴だと思われてる」

「思われないだろー。このご時世だし」

「コロナとワンルームで四人暮らしは、何の関係もないだろ……」

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