第3話探し物
「とりあえず適当な所に座ってよ」
私は彼女、小林ユカという少女を家に招き入れる。
このマンションに今は私一人しか住んでいない。
両親は海外に勤務命令が出て遠い場所にいる。
学校の関係で今更一緒に海外に行く事は出来ないから私一人で残る事にした。
まあ、月並みに両親は心配してくれるけど私にしてみればうるさい親もいないし十分注意しているから変な虫にも付かれないしで自由気ままにしていられる。
たまに叔母が様子を見に来るけどね。
「お邪魔します。親御さんは?」
「海外出張中。私一人しかいないからとにかく入って」
そう言うと彼女は軽くお辞儀してから部屋に入って来た。
そして私が勧めたソファーに座る。
「さてと、それでその探しモノって何?」
「はい、こちらの時間で多分十七年くらい前に異界から飛ばされた探索器です」
「探索器?」
私が首をかしげると彼女はゆっくりといろいろと話を始めてくれた。
それは私には理解が及ばない、しかし驚かされる物ばかりだった。
彼女の話ではこの世界は創造主というものが作った風船の様なものらしい。
そしてその創造主は同じような世界を沢山作っていて、その世界は色々なものが有るとの事。
そしてその別の世界に彼女は召喚され、異世界に長くいたらしい。
「ですのでこちらの世界で言えば私は既に百歳を超えていると言う事になります。私がこちらの世界で女学生をしていたのは大東亜戦争が始まる前でしたからね」
「はいっ!?」
どう見ても私と同じくらいの歳の彼女がそんな昔の人?
でも一体どう言う事?
「で、でもどう見たって私と同じくらいの歳にしか見えないけど……」
「経緯は割愛させていただきますが、私は年をほとんどとらないのです。ええと、エルフという存在は知っていますか?」
エルフって、確かゲームとかで出て来た耳の長い美人ばかりのやつ?
「何となくは知っているけど、こっちの世界じゃ架空の存在でしょ?」
「はい、そのエルフの女性、マーヤと契約をして彼女と同じ時間を過ごせるようになっています。しかし、まさかこちらの世界でもそれが続いているとは思いもしませんでしたが」
言いながらコーヒーを出してやると砂糖を何倍も入れていた。
かなりの甘党?
「それとこちらに来た時に気付いたのですが、どうやら異界を渡ると時間のずれが出る様ですね。あちらの世界で探索器を飛ばした時とこちらとでは時間に差が出ていました」
「そ、それでその探索器って何?」
「私がこちらの世界に戻る為のものでした。無数にある異世界を確実に渡って戻る為に必要な事でしたが、まさかそれが原因であ奴等がこの世界に実体化するとは思いもしませんでした。他の世界の探索器はあちらの世界の女神に頼んですでに回収できたのですが、この世界だけはどうしても見つからずやっとわかった事がこの八王子のどこかにあると言う事でした」
彼女はそう言いながらミルクもどぼどぼと入れる。
いや、全部入れた!?
そして口をつけると珍しく眉間にしわを寄せる。
「これ、苦いですね……」
「いやいやいや、砂糖五杯も入れて更にミルク全部入れればカフェオレなんてもんじゃないでしょうに!?」
「やはり緑茶が一番いいです」
キリっとした真顔で私にそう言う。
そう言えばお饅頭食べていた時にも緑茶を欲しがっていたっけ?
仕方なしに私はあまり飲まない緑茶を出す。
すると彼女はお行儀よく両手で湯呑を持ち、ずずずぅっとお茶をすする。
「はぁ、落ち着きます。やはり日本人には緑茶が合うと思うのですが」
「ま、まあ、好みは人それぞれだけど。それでその探索器ってどんな格好なのよ?」
「そうですね、手の平に収まる程度の丸い水晶球の様な物です。ビー玉程度の大きさですね」
彼女はそう言いながら人差し指と親指をビー玉くらいの大きさに開いて見せる。
「ビー玉って…… そんな小さなモン探さなきゃならないって言うの?」
「はい、しかし私には『同調』という特殊な事をすれば魔素が見えるので、魔素の強い所を探し回っております。ただ、この八王子には古来よりの結界が多く、神社や石門、石碑等見間違うものが多くて……」
「それでたまたまあの三傘見神社に来たって言う事ね…… で、あそこには無かったの?」
「はい、しかしあ奴等がこちらの世界ににじみ出て受肉していると言う事は近くに探索器が有るのではと思います」
彼女はそう言いながら自分で急須にお湯を注ぎお茶を注ぐ。
そしてまた両手で押さえながらお茶をすすっている。
「だったらそれを探しに行きましょう。ところであなたは何処に住んでいるの?」
「こちらでは住む所が無いので神社の境内などに泊まらせてもらっていますが」
「はぁ!? 何それホームレスでもあるまいし!!」
驚きながら彼女を見るけど、制服もきちんとしていて変な臭い一つしない。
それどころかなんか嗅いだ事の無いようないい香りもする。
「持ち合わせがほとんどありませんので仕方ありません。働くにしてもこちらでは勝手がわからず、広島からこちらに移動するのにお金をほとんど使ってしまって……」
なぜか申し訳なさそうにしている彼女。
私は思わず立ち上がってしまった。
「だ、だったらこれが終わるまで家にいなさいよ! JKが一人で神社みたいな人気の無い所居たら襲われるよ!?」
「そう言えば何度か殿方に襲われましたが、純潔をお渡しするのはいささかためらいましたので穏便にお帰り頂きました」
そう言いながらあのカバンを持ち上げる。
穏便って……
あの化け物と戦いを思い出す。
一体どう言った穏便なのか。
「とにかく、え~と、ユカはうちに泊まりなよ。明日から私も協力して美紀の仇も取らなきゃなんだから。早くその探索器ってのを見つけ出してもらわなきゃなんだからね!」
「そうですか、それではお言葉に甘えさせていただきます」
そう言って彼女、ユカはまたお茶をすするのだった。
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